Q & A
はじめに
- 指先の挫滅創に伴う爪甲脱臼(nail avulsion)は救急外来で頻繁に遭遇する外傷です。
- 適切な初期対応を怠ると、爪母と爪上皮の癒着により爪変形(翼状片形成)や機能障害を引き起こします。
- 本記事では、医療者が現場で迷わず対応できるよう、Schiller法による爪母癒着予防とフィルム代用法を中心に解説します。
解剖
爪甲(nail plate)、爪母(nail matrix)、爪床(nail bed)、爪上皮(eponychium)が重要。
爪母は爪の成長を担うため、損傷時には変形リスクが高い。

爪母と爪上皮の位置関係。Schiller法でここにスペースを確保することが重要。
爪甲脱臼を伴う指挫滅創の原因
- 指を機械や石に挟まれた際、強制的に引き抜かれる外力で発生。
爪根脱臼(proximal avulsion)だけでなく、爪甲が完全に剥がれる完全脱臼型もある。

典型的な爪根脱臼
診断と評価
- 骨折の有無を評価するために末節骨Xp撮影は必須。
tuft骨折で整復・固定不要例が多いが、開放骨折 vs 不全切断を見極めることが重要。
ポイント
開放骨折:指動脈1本以上が生存
不全切断:見た目はつながっていても、指動脈2本とも断裂

処置のStep-by-Step
処置前:Xp撮影
- 末節骨骨折を合併することが多いため、まずXp撮影をする。

Xpで末節骨のtuft部に剥離骨折を認める。骨の整復・固定は不要である。
Step 1:局所麻酔
1%キシロカインで指ブロック麻酔。
指先への直接麻酔は激痛のため、基部にブロック注射。

Step 2:洗浄と止血
生理食塩水で十分に洗浄。
観察困難な場合は指タニケットを使用。
Step 3:皮膚・爪床の縫合
皮膚:5-0ナイロン
爪床:6-0PDSまたは6-0バイクリル(吸収糸)
糸をきつく結びすぎない。血流温存が最重要。
Step 4:爪またはフィルムの挿入
① 爪が残っている場合 → Schiller法
脱臼した爪根部を元の位置に整復。
水平マットレス縫合で固定。
② 爪が残っていない場合 → フィルム代用
ペンローズドレーンを加工して爪形に整形。
Schiller法と同様に固定。
爪上皮と爪母が直接癒着すると翼状片が形成され、爪の再生が妨げられる。

爪が残っている場合はSchiller法を選択する:5−0ナイロンで図の要領で水平マットレス縫合をする。

爪がない場合は、ペンローズドレーンやフィルムを加工して爪形に整形し、Schiller法と同様に固定する。
Step 5:ドレッシング
ゲンタシン軟膏塗布後、アダプティックやエスアイメッシュで被覆。
包帯で軽く圧迫、冷却指示。
完全に爪が生えるのに約6ヶ月かかること、爪変形のリスクがあることを説明しておく。
処方例
ケフラールカプセル 250mg 1回1錠 毎食後 3日分
ロキソニン錠 60mg 1回1錠 毎食後 3日分
ムコスタ錠 100mg 1回1錠 毎食後 3日分
ゲンタシン軟膏 10g 1本
爪再生と予後
爪の完全再生には約6ヶ月を要する。
爪変形や再発リスクがあることを事前に説明。
コスト
- 創傷処理(K000)
まとめ
爪甲脱臼では、爪を戻すことが第一選択。爪がない場合はフィルムで代用する。
爪上皮と爪母の間に爪またはフィルムを挟み込み、癒着を予防することが重要。
Schiller法を用いて、脱臼した爪根部を確実に整復・固定する。
末節骨骨折の合併を確認するためにXp撮影は必須。
爪の完全再生には約6ヶ月かかり、変形リスクがあることを患者に説明する。
参考文献
- Rockwell WB, et al. Nail bed injuries. Plast Reconstr Surg. 1980.
Schiller WR. Nail bed repair and fixation. Hand Clin. 1990.