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【診療Tips】MRI検査と体内金属(プレート)の安全性|1.5T・3.0Tでの可否と確認ポイント

はじめに

  • MRI(磁気共鳴画像)検査は、放射線を使わず体の内部を詳細に調べられる、安全性の高い検査です。

  • しかし、体内金属(プレート・スクリュー・人工関節など)がある場合は、MRIの強い磁力で影響を受ける可能性があるため注意が必要です。

    「金属が入っているけどMRIは受けられるの?」
    「撮影する部位(頭)と金属の場所(足)が違えば大丈夫?」

  • このような疑問に、医療者向けの確認ポイントも交えながら解説します。

MRI

 

MRIと金属の関係:なぜ注意が必要なのか

  • MRIは非常に強力な磁場を使います。
    体内金属がある場合、以下のリスクが考えられます。
  1. 金属が磁力に引っ張られる
    → 骨折固定プレートはしっかり骨に固定されているため動くことはほとんどありませんが、古いインプラントではリスクが残ります。

  2. 金属周囲で画像が歪む(アーチファクト)
    → 撮影部位に近い金属が原因で、画像がぼやけて診断が難しくなることがあります。

  3. 発熱リスク
    → 特に長時間の撮影で金属がわずかに熱を持つ可能性があります。

体の中の金属が強力な磁場によって動いたり熱をもったりするリスクがあるね。
指導医

医療用チタンプレート

 

メーカーが公開するMRI安全基準

  • 体内金属のMRI撮影可否は、製品ごとの安全基準(MRI Conditional)で判断します。
  • 大手メーカーでは、MRI条件を公式に公開しています。

例:Synthes社(ジョンソン・エンド・ジョンソン)

  • 整形外科や形成外科領域で広く使われているSynthes社では、ほとんどのチタン製プレートやスクリューがMRI条件付きで使用可能です。
項目基準例
磁場強度(静磁場)1.5テスラ(T)安全、3.0テスラ条件付き
撮影時間30分以内が目安
撮影部位との距離金属から一定距離を保つことが推奨
材質チタン・チタン合金はMRI対応が多い
  • 📝 重要ポイント
    1.5Tはほぼすべて安全、3.0Tは条件付きで可
    製品の型番や手術記録を確認し、公式資料で適合を確認することが必要です。

 

医療者が確認すべき3つのポイント

  • MRI撮影の可否を判断する医療者は以下を必ず確認します。

1. 体内金属の種類を確認する

  • チタン製は基本的にMRI対応(古いステンレス製ステントなどは非対応の可能性あり)

  • 手術記録インプラントカードで材質を確認(手術した病院や患者に確認する)

 

2. 金属が埋入されている部位と撮影部位

  • 撮影部位と金属が離れていれば安全性が高い

  • 撮影部位に近い場合は、画像が乱れる可能性があり診断に影響

例:

  • 脳MRI+下肢プレート → 基本的に安全

  • 下肢MRI+同部位のプレート → アーチファクトが強く診断困難

 

3. 装着時期

  • 手術直後は金属や周囲組織が安定していないためMRIを避けることがあります。

  • 術後数週間~数か月経過していれば安全に撮影できるケースが多いです。

 

金属の詳細が調べてもわからない場合

レジデント
「手術をしてから数十年経っていて、手術記録が入手できない」のようなケースでは材質や製品がわかりませんよね?

よくあるよね。その場合の、判断の流れを下記にまとめたよ。
指導医

1. まず確認すべきこと

  • 手術記録・紹介状・インプラントカードの有無を再確認(本人・家族・前医)

  • X線単純撮影やCTで金属の種類や形状を推定
    → MRI対応インプラント(チタン合金など)は単純X線でもある程度特徴が出ます。

この作業はいつも結構大変。保険証などに体内インプラントの情報が記録されるようになるといいね。
指導医

2. MRI実施可否の判断

  • MRI絶対禁忌

    • 不明な金属が磁性体の可能性が高い場合(古いステンレス鋼、鉄など)

    • 脳動脈瘤クリップ(旧型)、眼窩内金属片など

  • MRI相対禁忌/要慎重

    • 金属の材質が不明で、体内に長期間存在するもの

    • 骨接合プレートやスクリューなどで、手術時期が古くメーカー不明


3. 実務上の対応

  • MRI安全性委員会や放射線科医と相談
    → 大学病院や基幹病院では「MRI安全管理責任者」が最終判断します。

  • 代替検査を検討

    • CT、造影CT、超音波など

  • どうしてもMRIが必要な場合

    • 金属の局在・固定性・体積を評価し、「局所RF加熱」「アーチファクト」リスクを説明

    • 撮影条件を工夫(低SARプロトコル、部位限定撮影など)

    • 緊急性が高い場合はbenefit-riskバランスを明示したうえで同意取得


4. 実際のよくある判断例

  • 骨折プレート・スクリュー(整形外科)
    → チタン製が多く、古くてもMRI可能例が多い(ただしアーチファクトは強い)

  • 血管クリップ・ステント
    → 古い世代では不明例あり。金属名が確認できない場合はMRI回避が無難。

  • 人工関節
    → ほぼMRI対応。ただし金属アーチファクトにより読影困難なことがあります。

 

まとめ

  • MRIは安全な検査だが、体内金属がある場合は必ず事前確認(手術記録やインプラントカードで)が必要

  • Synthes社製のプレートは1.5Tで安全、3.0Tは条件付きで撮影可能

  • 撮影部位と金属部位が離れていれば安全性が高い

  • 体内金属の詳細がどうしてもわからず、それでもMRIを撮影しないといけない場合は、MRI安全管理責任者と相談のうえ、benefit-riskバランスを明示したうえで同意を取得し、リスクを最小限にした撮影をする

 

参考文献

厚生労働省「磁気共鳴画像検査における安全管理」によると、MRI検査を受ける際は体内金属の有無を事前に申告することが強く推奨されているよ。
指導医
  • 日本磁気共鳴医学会(JSMRM):「MRI検査に関する安全管理指針 第4版」
    https://www.jsmrm.jp
日本磁気共鳴医学会の安全指針では、1.5テスラMRIと3.0テスラMRIの使い分けや条件付き撮影の基準が詳しく記載されているよ。
指導医
Synthes社公式資料では、多くのチタン製プレートが1.5テスラで安全、3.0テスラでは条件付きで撮影可能であるとされているよ。
指導医
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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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