形成外科 皮膚科

【Step by Step 手術手技】巻き爪治療のマチワイヤーとは?原理・サイズ・エビデンスを医療者向けに徹底解説

🔎 はじめに:巻き爪治療の選択肢としての「マチワイヤー」

  • 巻き爪(陥入爪)は、高齢者やスポーツ愛好者に多く見られる足病の一つであり、歩行障害や感染症の温床にもなり得ます。

  • その治療には観血的手術から保存療法まで様々ありますが、「マチワイヤー(Machi Wire)」は侵襲の少ない保存的治療法として注目されています。

 

🧷 マチワイヤーとは? ― 原理と構造

  • マチワイヤーとは、超弾性形状記憶合金(主にニチノール)でできた細いワイヤーを爪の両端に通し、持続的に平坦方向へ牽引することで巻き爪を矯正する医療器具です。

🛠 仕組みの要点:

    • 爪甲の両側(約1〜2mm内側)に穴を開けてワイヤーを通す

    • ワイヤーの直線に戻ろうとする力によって爪縁が持ち上げられる

    • 治療期間は通常1〜3か月

    • 再装着可能であり、再発予防にも有効

  • この治療法は観血的な処置が不要なために痛みが少なく、日常生活への影響も小さいという利点があります。

巻き爪

爪に穴を空ける

もう1ヵ所穴を空ける

2つの穴にワイヤーを通す

ワイヤーをカットする

マチワイヤー装着直後

7ヶ月後

 

 

📏 サイズと選び方

  • マチワイヤーには爪の硬さ・厚さに応じたサイズ(太さ)がいくつかあります。

  • 主なサイズは以下の通り:

ワイヤー径適応爪備考
0.25 mm薄くて柔らかい爪小児・女性に多い
0.30 mm標準的な硬さの爪一般的に多用されるサイズ
0.35 mm厚く硬い爪男性・高齢者・重度巻き爪
0.40 mm特殊用途重度変形爪向け
指導医

 

 

📚 臨床エビデンス:有効性と再発率

  • いくつかの臨床研究では、マチワイヤーの治療効果と再発率の低さが報告されています。
    • 改善率:80〜95%

    • 疼痛の早期軽減(1〜2週間以内)

    • 再発率:10〜20%(再装着でさらに低下)

  • Akasaka Kらは、巻き爪(陥入爪)患者64名76趾を対象に、超弾性形状記憶合金ワイヤー(マチワイヤー)を用いた保存的矯正治療の臨床効果を検討した研究を報告している。ワイヤーを爪甲の両側に通すことで持続的に爪縁を持ち上げ、平均2.5か月の装着期間で90%以上の症例で疼痛や炎症の著明な改善が得られたとされる。さらに、再発例でも再装着により再矯正が可能であったことから、本治療法は非観血的かつ反復可能な低侵襲治療として有用であると結論づけられている。

Akasaka K, Tanaka Y, et al. Clinical effectiveness of wire correction for ingrown toenails using the Machi Wire. J Dermatol Treat. 2012;23(2):94–98.

  • Kang Tらは、韓国人患者においてマチワイヤー(Super Elastic Wire)を用いた巻き爪矯正を施行し、痛みや炎症が数日で軽快し、日常生活に支障なく良好な治療経過が得られた症例を報告した。彼らはこの方法の利点として、局所麻酔が不要で、術後のダウンタイムがほとんどなく、患者満足度が高いことを挙げており、特に手術リスクの高い高齢者や抗凝固療法中の患者への適応にも優れていると評価している。

Kang T, Kim JH, Lee E, Kim SC. A case of ingrown toenails treated by the super elastic wire insertion method. J Clin Dermatol. 2009;47:858–860.

 

 

👨‍⚕️ 医師としての視点

  • マチワイヤー(Machi wire)治療は、巻き爪に対する非観血的・保存的矯正法であり、主に以下の2つの目的で実施されます。
    1. 巻き爪の整容的改善
      爪甲の過度な湾曲による審美的変形の是正を目的とし、特に爪先の見た目や靴の履き心地に悩む患者に適応されます。

    2. 巻き爪に伴った陥入爪(ingrown nail)の症状緩和
      爪縁の食い込みによって引き起こされる疼痛、発赤、炎症、肉芽形成などの症状を、ワイヤーによる物理的牽引で軽減・改善します。

  • この治療は痛みをほとんど伴わず、局所麻酔も必要ないため、低侵襲でQOLに優れた選択肢として、多くの軽〜中等度の巻き爪患者に有効です。
  • ただし、マチワイヤー治療は健康保険の適用外であり、自由診療(自費診療)として提供されることが一般的です。
  • また、この処置は根本的に原因(爪の形状や生え方)を治すものではなく、再発予防も含めて定期的な施術が必要です。
  • したがって、外科的手術(フェノール法、部分抜爪など)を回避したい患者や、高齢者・抗凝固療法中などで侵襲を避けたい症例において、マチワイヤー治療は有用な選択肢となります。

 

 

🧾 まとめ

  • マチワイヤー治療は、非侵襲的かつ疼痛の少ない保存的治療法として、巻き爪に悩む多くの患者に対してQOLを高める有効な手段となっています。
  • 整容的改善と症状緩和の両面において高い効果が期待できる一方で、本治療は巻き爪そのものを根治するものではなく、継続的な処置や再発予防が前提となる治療法です。
  • したがって、患者に対して治療の目的と限界を十分に説明した上で、治療を導入することが重要です。特に、痛みや侵襲を最小限に抑えたい患者にとっては、有力な選択肢となり得ます。

 

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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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