はじめに
- 粉瘤(epidermal cyst)は、皮膚科・形成外科外来で最もよく遭遇する良性腫瘍の一つである。
- その手術法として「くり抜き法(へそ抜き法)」は、創部を最小限にしつつ嚢腫を確実に除去できるため、美容的・機能的両面で優れた術式として広く用いられている。
- 本稿では、形成外科医の視点からくり抜き法の適応、手技の実際、注意点を解説する。
Outline
【音声あり】おでき(粉瘤)は中身をしぼり出して袋をひっぱりだす「くり抜き法」がオススメ!
【音声あり】粉瘤は中身じゃない、袋をとる(患者さん向けの解説動画)
Step by Step

大転子部の粉瘤。過去に炎症歴はない。
■ Step 1: 局所麻酔
- 1%Eキシロカインで局所浸潤麻酔する。
腫瘍の周囲の皮下に、四角形を描くように局所麻酔薬を注射する。
麻酔が効くまで5分程度待つ。

■ Step 2: 皮膚切開(パンチ)
- ディスポーザブルパンチ(円筒状のメス)で、皮膚開口部を含めて皮膚を円柱状にくり抜く。
ディスポーザブルパンチを皮膚に垂直に時計回り&反時計周りに回しながら軸圧方向に押しつける。皮膚の厚さは体の部位によって異なり、背中はかなり厚い。パンチの先端が皮膚を貫通して皮下脂肪に達すると軸圧方向の抵抗が急に弱くなる。
パンチの円筒サイズ(2〜5mm)は粉瘤の大きさや部位によって使い分ける。小さな粉瘤は2〜3mm径、大きな粉瘤では5mmを選択する。


■ Step 3: くり抜いた円柱状の皮膚を切除
- くり抜いた円柱状の皮膚を切除する。
- 深部に嚢腫内部の角質&皮脂が確認できる。


■ Step 4: 嚢腫内容の圧出
- 嚢腫を指で摘まんで、中身(角質&皮脂)を押し出す。
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■ Step 5: 皮膚をよく揉む
- 中身を押し出した後に皮膚をよく揉むと、嚢腫壁が周囲からはがれる。
- 嚢腫壁の端を鑷子で把持して、剥離剪刀で丁寧に剥離し、萎んだ嚢腫壁を摘出する。

中身を押し出した後に皮膚をよく揉むと、嚢腫壁が周囲からはがれる。

嚢腫壁の端を鑷子で把持して、軽く牽引しながら剥離剪刀で丁寧に剥離し、萎んだ嚢腫壁を摘出する。
■ Step 6: 嚢腫壁の除去
- 萎んだ風船のようになった嚢腫壁を摘出する。
- 病理組織検査に提出する。

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■ Step 7: 洗浄
- 内腔に嚢腫壁の残存がないことを確認して、生理食塩水で洗浄する。

■ Step 8: 縫合
- 皮膚縫合はしてもしなくてもよい。縫合する場合は約1週間で抜糸、縫合せずに二次治癒させる場合は約2週間で上皮化する。
- 本症例では6−0ナイロンで巾着縫合した。
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巾着縫合のシェーマ。創縁の真皮に糸をかけ、巾着を閉じるように糸を引っぱる。
■ Step 9: 圧迫固定する
- 綿球またはガーゼを厚めに折り畳んで圧迫する。
- 布テープで固定する。
布テープでかぶれないように皮膚被膜剤スプレーを散布するとよい。


皮膜スプレーを使用すると肌に優しいうえに、布テープのつきがいい。写真は、3M キャビロン 非アルコール性皮膜スプレー 。

手術当日は布テープで軽く圧迫する。
■ 術後
- 自宅でも保冷材で冷却して、患部の安静を保つ。
- 入浴、お酒、激しい運動×
- 術翌日から自宅でシャワー洗浄処置とする。シャワー洗浄(石鹸、シャンプーも可)、タオルで水分をふきとって、ゲンタシン軟膏、ガーゼテープ(または浸出液が少なければ絆創膏)。
- 抜糸は術後1週程度で可能である。
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 2日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 2日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 2日分
- ゲンタシン軟膏 10g 1本
■ コスト
- 皮膚、皮下腫瘍摘出術(非露出部)(K006)
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