Key Point Summary
爪床欠損は、直径≦3mmであれば保存治療が可能とするエビデンスがある。 bFGF(フィブラスト)スプレーや人工真皮を使用することで、どの程度まで保存治療可能かは明らかになっていない。 爪床欠損が大きい場合は、第1足趾からの爪床移植を考慮する。
Q & A
Outline
解剖
爪床損傷
- 爪床が挫滅しているだけの場合(=爪床欠損がない場合)は、6−0PDS、5−0バイクリルなどの細い吸収糸でゆるく結節縫合するだけでよい
- 爪床欠損+の場合、小範囲(直径≦3mm)の時は保存治療で治癒可能とする報告がある
(東禹彦: 爪母および爪床生検の爪甲再生に及ぽす影響.皮膚12:78.1970.) - 一方で、爪床欠損の位置も重要である。爪床の中央に欠損がある場合は、周囲の爪床から創治癒が期待できるため、経験上3mm以上の欠損でも人工真皮貼付のみで保存的に治癒する。爪床欠損が爪床末梢にあり、且つ、その欠損が大きい場合(目安として爪甲面積の1/2以上)は爪床移植が必要となる。
■ STEP 1
- 指ブロック麻酔+滅菌手袋をつかった指タニケットで手術可能である。
- 0.75%アナペイン10ccで指ブロック注射する(1%キシロカインでもよいが手術時間が1〜2時間をこえると術中に麻酔がきれてくることがある)。
- 麻酔がきくまで3分待つ。
■ STEP 2
- 本症例の末節骨骨折はtuft部(下図:末節骨末梢の膨らんでいる部分)の骨折であるため、本来であれば鋼線固定の必要はないが、爪床を整復する目的、軟部組織の血流安定目的で0.8mm Kワイヤーを2本刺入した。
- Kワイヤーは皮膚ギリギリでカットして埋め込んだ。
■ STEP 3
- 12×8mmの比較的大きな爪床欠損を認めるが、欠損周囲に爪床成分が残存しているため、人工真皮貼付の方針とした。
- 人工真皮にはインテグラ単層式(Thin)(フィルムがないコラーゲン層だけの人工真皮)を選択した。
■ STEP 4
- 爪甲の形状に加工したフィルム(インテグラ単層式Thinの台紙)に18G針でドレナージ孔を複数あけて、爪甲の代わりに爪母と爪上皮の間に挿入する。
本症例のように爪母にも創がある場合、爪母-爪上皮間に癒着が生じて爪が割れて生える(split nail)になる可能性があるためフィルムシートを挟むとよい
人工真皮貼付部は乾燥しないようにwet dressing管理とする。フィルムシートはwet dressing目的でも都合がよい。
■ STEP 5
- 術後のwet dressingは具体的には、(A)洗浄、フィブラストスプレー噴霧、プロスタンディン軟膏による連日の外用処置、または(B)洗浄、フィブラストスプレー噴霧、創傷被覆材(ハイドロサイトなど)による2〜3日ごとの処置を選択する。
- フィルムは術後3週間で抜去する
- 末節骨骨折は約2週間ごとにXpで評価し、術後2〜3ヶ月程度で骨癒合が得られたらKワイヤーを抜去する。皮膚表面からKWの断端が確認できれば、無麻酔でペアンなどで断端を把持して抜去する。断端が確認できなければ指ブロック下にて小切開を加えて同様に抜去する。
■ 術後経過
- 以下、術後の経過写真を提示する
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- フィブラストスプレー 500μg 1本
- プロスタンディン軟膏 30g 1本
■ コスト
- 骨折経皮的鋼線刺入固定術(K045)
人工真皮は特定保険医療材料であり、償還価格(450円/cm2)が決まっている。病名に「皮膚欠損創」の追加が必要となる。