手外科

【Step by Step】腋窩ブロック: エコーガイド下に正中・尺骨・橈骨・筋皮神経をブロックする

Key Point Summary

腋窩ブロックは上肢手術において有用な麻酔法である。

エコーガイド下でおこなうことで、より確実にブロックすることが可能である。

正中神経(MN)、橈骨神経(RN)、尺骨神経(UN)、筋皮神経(McN)の4本をブロックする。

誤って血管内に注入しないように逆血がないことを確認してから薬液を注入する。

 

 

 

Q & A

レジデント
腋窩ブロックって、どんなメリットがあるんですか?

上肢タニケットで駆血して長時間(ワンタニケットで90分まで)、無血野での手術が可能になるよ。
指導医

レジデント
腋窩ブロックしないで、上肢タニケット駆血をするとどうなるんですか?
タニケットペインが生じるよ。早い人で駆血後10分ぐらいから痛みがでるよ。痛みに強い人でも30分以上の駆血は難しいね。
指導医

腋窩ブロックをマスターしておくと、例えば1人医長で、全身麻酔が組みづらいような病院でも、局麻枠でそこそこの上肢手術をすることが可能になるよ。
指導医

 

 

Outline

【概要】

  • 腋窩ブロックは上肢手術において有用な麻酔法である。
  • エコーガイド下でおこなうことで、より確実にブロックすることが可能である。
  • 正中神経(MN)、橈骨神経(RN)、尺骨神経(UN)、筋皮神経(McN)の4本をブロックする。
  • 麻酔後は上肢が麻痺するため、三角巾などで保持して帰宅する。

 

 

【解剖】

  • 腋窩レベルでは、正中神経は腋窩動脈の前外側、尺骨神経は内側に、橈骨神経は背側に存在している。筋皮神経は腋窩動脈の外側に離れて位置し、烏口腕筋内もしくは上腕二頭筋と烏口腕筋の間に存在している。
  • なお、腋窩動脈の周囲には静脈が存在している。

AA: axillary artery, McN: musculocutaneous nerve, RN: radial nerve, UN: ulnar nerve, MN: median nerve

AA: axillary artery, AV: axillary vein, McN: musculocutaneous nerve, RN: radial nerve, UN: ulnar nerve, MN: median nerve

 

 

【準備物品】

  • 0.75%アナペイン1本(20ml)と1%キシロカイン20ml
  • 20mlのロック付きシリンジ 2本
  • 23Gカテラン針
  • 延長チューブ(径が細いもの)
  • ヒビテン、綿球

0.75%アナペイン20mlと1%キシロカイン20mlを混ぜた40mlを20mlのロック付きシリンジですって2組準備するよ(50mlのシリンジにすって1本でやろうとすると薬液を押すのが大変だよ)。このシリンジと延長チューブと23Gカテラン針を写真のように接続するよ。
指導医

 

 

Step by Step

■ Step 1 

  • 手台とエコーを使用する。患者の腋窩部には吸水シートを敷いておくとよい。
  • 患者:仰臥位で肩関節は外転90°で肘はやや屈曲させる。
  • 麻酔施行者:手台の足側に座る。
  • 麻酔介助者:患者の頭側に立ち、患者の表情、エコーがのぞけるようにする。
  • エコー:手台の頭側に設置する。
腋窩ブロックをする際に、万が一、血管内に誤って薬液が入ると血圧がドンっと下がるので、健側の上肢からラインを確保しておくのをお勧めするよ。
指導医

 

レジデント
手外科が専門じゃない整形外科のDrや麻酔科Drは、麻酔施行者が患者の「頭側」に立っていることは多いですよね?
そうだね。手外科医は、もともとブラインドで腋窩ブロックを行っていたので、患者の尾側に座って麻酔する方法に慣れているよ。手外科じゃない整形外科Drや麻酔科Drは、目線、針、プローベモニターが一直線上の、in line position(つまり、患者の頭側に座ってモニターは尾側)の方がやりやすいみたいだよ。
指導医

 

 

■ Step 2 

  • 腋窩部をヒビテンで消毒する。
  • エコープローブにゼリー or ヒビテン消毒液をつけて腋窩動脈(AA)から探す。
  • エコープローブを強く押し当てると、腋窩静脈(AV)が虚脱してみえなくなるので、腋窩動脈とその周囲の神経を同定しやすくなる。
  • 腋窩動脈(AA)を時計にみたてると、正中神経(MN)は10時、尺骨神経(UN)は2時、橈骨神経(RN)は6時に位置する(エコープローブをあてる角度により若干ずれる)。

腋窩動脈(AA)は、円形で拍動している。

橈骨神経は同定しづらいことが多い。エコーで同定できなくても、腋窩動脈の裏面に走行しているものとしてブロックする。

エコープローブの頭側が画面の左にくるようにしているよ。
指導医

エコープローブを軽くあてた時の画像。画面の左型が患者の上腕外側になる。

AA: axillary artery, AV: axillary vein, McN: musculocutaneous nerve, RN: radial nerve, UN: ulnar nerve, MN: median nerve, CoBM: coracobrachialis muscle

エコープローブを強く押しあてると、腋窩静脈(AV)が虚脱して見えなくなる。腋窩動脈(AA)は虚脱しないため、区別しやすい。

AA: axillary artery, McN: musculocutaneous nerve, RN: radial nerve, UN: ulnar nerve, MN: median nerve, CoBM: coracobrachialis muscle

 

 

■ Step 3 

  • ブロックは正中神経(MN)からおこなう。
  • 23Gカテラン針は平行法(エコープローブの長軸方向から)で刺入し、画面を見ながら神経に向けてすすめていく。
  • 針先が神経に達すると、放散痛があるので部位を確認する。患者には穿刺前に「手指にビリッときたら、きた!と教えてください。その後、何指にビリッときたか教えてください。」と話しておく。
  • 「母指 or 示指 or 中指(=正中神経の支配領域)にビリッときました。」というのを確認したら、血液の逆血がないことを必ず確認して、5cc注入する。

麻酔施行時にはエコープローブを押しつけて、静脈をつぶしておくと、解剖がわかりやすいうえに、誤って静脈内に薬液を注入するリスクを軽減できる。

1番効かせたい神経を最初にブロックするやり方もある。薬液を注入すると血管や神経が押しやられて解剖がわかりづらくなる。またブロックしていない神経にも少なからず麻酔がきいて、放散痛がわかりづらくなるためである。

 注入前に逆血がないことを確認すること、注入中は針先を動かさないことが腋窩ブロックを安全におこなうための最大のコツである。

万が一、血管内に薬液が注入されると、舌がピリピリしたり、生あくびをして、血圧が急に下がるよ。その場合は、麻酔を中断して、ラクテックなどの外液を全開で投与して、バイタルの安定を最優先するよ。
指導医
局所麻酔薬の総投与量の極量に関しては患者毎に確認を!
指導医

画面の左上から23Gカテラン針が正中神経(MN)にむかって進んでいるのがわかる。

 

 

■ Step 4 

  • 橈骨神経(RN)、尺骨神経(UN)も同様に5ccずつ注入する。
  • 橈骨神経(RN)をブロックする際は、正中神経(MN)をブロックした刺入針を皮膚直下まで引き抜いて、角度をかえて腋窩動脈の裏面(6時の位置)を狙って刺入する。橈骨神経(RN)の放散痛はわからないことが多い。
  • 尺骨神経(UN)をブロックする際は、一旦針をぬいて、プローブの下方(内側)から針を刺入する。

 

エコープローブにそって針を刺入するのがコツだよ。ビギナーはエコー画面に針をきれいに描出するのに苦労するよ。逆に、それさえできれば、手技は難しくないよ。
指導医

 

 

■ Step 5 

  • 正中(MN)、橈骨(RN)、尺骨神経(UN)をブロックしたら、一旦針を抜き、最後に筋皮神経(McN)をブロックする。
  • プローブを上方(外側)に滑らせると、筋肉内に高輝度にうつる筋皮神経(McN)を確認できる。
  • 針先が神経に達すると、患者は「肘がずーんと重いです」と言う。
  • 血液の逆血がないことを必ず確認して、5cc注入する。
4本の神経に5、5、5、5で、Total 20cc 注入したことになるよ。小児や体重の軽い高齢者では極量の確認をしよう!
指導医

 

中心部に白くうつっているのが筋皮神経(McN)である。正中(MN)・橈骨(RN)・尺骨(UN)を描出していたときのエコープローブを上方(外側)にすべらせるのがコツである。

 

 

■ Step 6 

  • 10〜15分ほど待つ。

この間にドレーピングをおこなうとよい。

腋窩ブロックは、ブロックをした腋窩部から指先まで効くのに10〜20分程度かかるよ。
指導医

 

 

■ Step 7 

  • 麻酔の効きを確認する。
  • 正中神経(MN)は母指~中指の屈曲で、尺骨神経(UN)は小指の屈曲で、橈骨神経(RN)は肘・手関節・手指の伸展で、筋皮神経は肘の屈曲で判定する。麻酔がしっかり効いていれば、自動運動ができないか、運動の減弱がある。
  • またアルコール綿等を使って、知覚でもそれぞれの神経の麻酔の効き具合を評価する。麻酔が効いているとアルコール綿で触っても冷たく感じなくなる。
レジデント
麻酔の効きが悪いときはどうしたらいいですか?
もう少し待つか、局所麻酔の併用をするといいよ。その場合、麻酔が極量をこえないように注意しよう。
指導医

 

 

■ 参考図書 

  • 向田雅司. 手指の手術に有効な麻酔

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