教育

【医学の偉人Tips】William Oslerの名言と外科医の心得|「手術をしない判断」が最も重要な理由

ウィリアム・オスラーとは?

  • ウィリアム・オスラー(William Osler, 1849–1919)は、カナダ出身の内科医で、「近代医学教育の父」と呼ばれています。

  • ジョンズ・ホプキンス大学医学部の設立メンバーとして、医学教育に革新をもたらしました。

  • 特に、ベッドサイド教育を重視し、医学生を患者のベッドサイドに連れていき、実際の診療を通じて教育するスタイルを確立しました。この教育法は現在でも世界中で広く採用されています。

William Osler

外科医に向けたオスラーの名言

  • オスラーは医学全般に多くの名言を残していますが、外科医に特に響くのが以下の言葉です。

"The surgeon knows how to operate, when to operate, and when not to operate."
「外科医は、どのように手術するか、いつ手術するか、そしていつ手術をしないかを知っていなければならない。」

  • この言葉は、外科医にとって単に手術技術を磨くことだけでは不十分であり、「手術を行わない」という判断力こそが最も難しく、かつ重要であることを教えています。
  • 日本語では次のように簡潔に引用されることもあります。

「手術は、しないという判断が最も難しい。」

 

なぜ「手術をしない判断」が重要なのか

  • 現代医療では、検査技術や画像診断が進歩した結果、手術適応を考える場面はますます複雑になっています。
  • 外科医は、以下の3つの視点から手術の可否を判断する必要があります。
    1. 患者の全身状態
      高齢者や重度合併症を持つ患者では、手術リスクが非常に高い場合があります。

    2. 手術後の生活の質(QOL)
      手術による機能改善が、患者の生活にどれだけ寄与するのかを評価する必要があります。

    3. 他の治療法との比較
      保存療法や新しい低侵襲治療が有効であれば、あえて外科的治療を選ばないことも重要です。

外科医の使命は「命を救うこと」だけではなく、「患者にとって最善の結果を選ぶこと」である。

 

ウィリアム・オスラーのもう一つの名言

"The good physician treats the disease; the great physician treats the patient who has the disease."
「良い医師は病気を治療する。偉大な医師は、その病気を持つ患者を治療する。」

  • この言葉は、医療者が「目の前の疾患」ではなく、「目の前の患者」そのものに向き合うべきだという理念を示しています。

 

臨床現場での実践例

  • 例えば、整形外科や形成外科でよくある手の外傷や腫瘍手術の場合、以下のような「医学的適応」だけではない要素が意思決定に大きく影響します。
    • 患者の職業

    • 利き手かどうか

    • 手術後のリハビリ負担

    • 経済的背景

 

参考文献

  • Osler W. Aequanimitas: With Other Addresses to Medical Students, Nurses and Practitioners of Medicine. Blakiston's, 1904.

  • Johns Hopkins Medicine. William Osler Biography

Aequanimitas(ラテン語で「平静」「平等心」を意味する)は医学生や若い医師向けの講演集で、オスラーの思想が詰まった名著だよ。医学教育や臨床倫理に関する含蓄の深い言葉が多く含まれ、現在でも医学部の卒業式などで引用されることがあるよ。下はその日本語訳をまとめたもの。
指導医

 

 

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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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