ER 形成外科 手外科 皮膚科

【Step by Step 手術手技】ERでよく遭遇する「指尖部皮膚欠損」の治療法|湿潤療法と止血材を活用した実践的アプローチ

Key Point Summary

  • 指尖部皮膚欠損はER当直で頻繁に遭遇する外傷のひとつ。

  • 基本方針は 止血 → 湿潤環境での保存的治療

  • 糸で強く結紮して止血するのは血流障害・疼痛遷延のため推奨されない。

 

Q & A

 

レジデント
指尖部の皮膚欠損を結節縫合でギューッと寄せて止血しているのを見たことがあります。治療法としてどうでしょうか?


指尖部で糸を強く結ぶのはオススメできないよ。他院から「抜糸お願いします」と紹介される患者さんの多くが強い疼痛を訴えてるんだ。指尖部は神経終末が密集しているため、小欠損なら湿潤療法で自然に上皮化させた方が治療成績は良好だよ。
指導医


レジデント
なるほど。やはり血流も阻害されますね。

その通り。
指導医

 

 

Step by Step

 

■ Step 1: 指ブロック麻酔 

  • 1%キシロカイン5-10ccで指ブロック注射をする。
  • 麻酔が効くまで3分待機。

 

 

■ Step 2: 洗浄 

  • 生理食塩水で十分に洗浄。


創面から出血がジワジワでていても問題はない(創面を圧迫したら必ず止血する)。

 

 

 

■ Step 3: 止血材で被覆

  • 止血材ソーブサン、カルトスタット、アルジサイトAg等)で創面を被覆する。
  • その上からフィルム材(テガダーム or エアウォール等)や布テープで固定。

指尖部の欠損を糸で結紮して止血するのは、痛みが長引くのでおすすめしない。

 この時点ですでに止血しているようであれば、止血材ではなくStep5の創傷被覆材でも可である。

 

以前よく使っていたソーブサンやアルジサイトは今は流通していないよ。
指導医

 

止血材(カルトスタット)

 

止血材の上に貼るフィルムは、ロールタイプのエアウォールが使いやすいよ。
指導医

 

■ STEP 4: 患手の挙上と冷却

  • 当日は患手を心臓より高く挙上し、保冷剤などで1〜2時間冷却する。
  • 入浴・飲酒・激しい運動は避ける。
  • 翌日以降(2〜3日後)は形成外科または整形外科を再診する。


血流がよくなること(入浴、飲酒、運動など)をすると、患部が腫れて、出血して、ズキズキ痛む。

 

 

■ STEP 5: 創傷被覆材へ切替

  • 止血材は、翌日はがすとまた出血することが多いので、2〜3日経ってからはがすのが望ましい。
  • 出血がおさまっていれば、創傷被覆材(デュオアクティブETやキズパワーパッド)で創面を密閉して湿潤環境で上皮化させると痛みなくきれいに治癒する。その場合、浸出液の量にもよるが、2〜3日ごとの交換で可である。

フィブラストスプレーの併用は上皮化を促進する。

 

 

自宅処置では、デュオアクティブETの代わりに、キズパワーパッドを使用してもらうことが多いよ。キズパワーパッドは薬局やネットで購入できるよ。
指導医

 

 

止血材が剥がれづらいときはどうする?

レジデント
止血材は創面にへばりついて剥がれない時はどうしたらいいんですか?

微温湯に10分ぐらいつけておくと簡単にはがれるよ。
指導医

もしくは外来受診日(剥がす日)の前日に、へばりついた止血材の上からワセリン軟膏(ゲンタシン軟膏など)を塗布してから受診してもらうと外来ですぐにはがすことができるよ。
指導医

 

 

■  処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後

  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後

  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後

  • フィブラストスプレー(必要時)

キズが深い場合はフィブラストスプレーを処方することがあるよ。自宅で創傷被覆材(デュオアクティブETやキズパワーパッド)を交換する際に、創面に噴霧してもらうよ。
指導医

 

 

■  コスト

 

外来後の自宅処置におすすめ!市販で買えるケアアイテム。患者さんに紹介するといいよ。
指導医
指導医
きずパワーパッドは患者さんにも購入をするめることが多いよ。軟膏・ガーゼ処置はかさばるのと、交換時の痛みも強いよ。

 

きずパワーパッドは水に弱いので、上からフィルムを貼ることがあるよ。エアウォールUVは幅が狭くて使いやすいうえに、きずあとの色素沈着予防にも使えるので重宝するよ。
指導医

 

患部を防水保護する観点からは防水指サックも便利だよ。
指導医

 

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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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