はじめに
生活保護を受給している患者さんは「医療扶助」により、医療費の自己負担は原則ゼロです。
しかし臨床現場で診療に関わると、単に「医療費がかからない」という理解だけでは不十分であることに気づきます。
たとえば、入院中には生活扶助が日割りで減額される仕組みがあり、医療者も入院調整をする際に理解をしておく必要があります。
また外来でよく求められる「タクシー券」の交付にも厳格な条件があり、医師の意見書や診断書が求められる場合が多いのです。
本記事では、医療者として知っておくべき生活保護制度の要点を、臨床の視点も交えて整理します。

生活保護
医療費はかからないのか?
自己負担ゼロ:保険証の代わりに「医療券」が発行され、原則すべての診療費は公費負担となります。
入院中の生活扶助はどうなる?
- 入院中は生活扶助費(生活費部分)が日割りで減額されます。これは入院により食費・光熱費などの生活費が不要になるという制度設計によるものです。
事前に説明しないと「入院したらお金が減った」という不満につながりやすい
入院計画を立てる際には、医療だけでなく生活面の影響も説明することが重要
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タクシー券の適応
- 外来通院時の「タクシー券」を求められることは多いですが、適応は厳格に限定されています。

タクシー券
認められる場合
歩行困難(例:重度の整形外科疾患、神経疾患)
身体障害による公共交通機関利用の困難
医師が医学的必要性を認め、診断書・意見書を作成した場合
認められない場合
単なる患者希望
「雨の日は大変だから」など、医学的理由のないケース
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医師のジレンマと考え方
- 生活保護患者は制度上、タクシー券交付が認められる場合がありますが、一般患者は自費で介護タクシーを利用しており、経済的負担を強いられています。
- 同じ「足が悪い患者」でも、生活保護か否かで負担が大きく異なるのは事実です。
医師が取るべき姿勢
制度に忠実に判断する(監査や不正利用防止のため)
患者に制度の線引きを丁寧に説明する
公平性への葛藤を抱きつつも、「最低限度の生活保障」という制度趣旨を理解し、偏見なく対応する
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Pearls & Pitfalls
Pearl:入院中の生活扶助減額を事前に説明するとトラブルを防げる
Pearl:タクシー券は「医学的必要性」に基づく制度であることを強調する
Pitfall:「かわいそうだから」という理由だけで交付すると不正利用リスク
Pitfall:説明不足のまま拒否すると「差別」と受け止められる可能性
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まとめ
- 生活保護患者の診療では、医療費が自己負担ゼロである一方で、入院中の生活扶助減額やタクシー券の厳格な適応といった制度特有の課題があります。
- 医師は制度に忠実であると同時に、患者に分かりやすく説明し、公平性を意識しながら臨床に臨むことが求められます。