形成外科

【診療Tips】局所麻酔注射の痛みを最小限にするための実践ポイント

はじめに

  • 局所麻酔注射は、小外科手術において「最も痛みを伴う工程」としてしばしば報告されます。
  • しかし、適切な準備と技術を用いれば、患者さんが感じる痛みを最小限に抑えることが可能です。
  • 本記事では、エビデンスに基づいた痛くない(痛みが少ない)局所麻酔注射の工夫を、実践しやすい形で整理します。

 

1. 麻酔薬の調整

指導医
ポイントは「pH」と「温度」

炭酸水素ナトリウムでpH調整

  • 1%リドカイン+エピネフリンはpH4.2と強酸性で、そのままでは注入時に強い痛みを生じます。
  • 8.4%炭酸水素ナトリウムを10:1の比率で混合することでpHを生理的値(約7.4)に近づけ、注射痛を有意に減少させます(Cochraneレビューでも支持)。
8.4%炭酸水素ナトリウム

8.4%炭酸水素ナトリウム

 

麻酔薬を温める

  • 体温程度に温めることで、冷刺激による痛覚受容器の興奮を抑え、浸透速度も向上します。
バッファリング+加温の併用が最も疼痛を軽減すると報告されているよ
指導医

 

2. 使用する針

27~30G針を推奨

  • 細い針ほど侵害受容器の刺激が少なく、痛みが軽減されます。(顔面:30G、手・体幹:27G、が目安)
  • 針が細いほど注入速度も自動的に遅くなるため、疼痛軽減効果がさらに高まります。

針の使い回しは避ける

  • 同じ針を吸引・注入の両方に使用すると針先が鈍化し、穿刺痛が増加します。
  • 吸引用と注入用を分けることで痛みを減らせます。

 

3. 患者の準備

針を見せない

  • 視覚刺激による恐怖や不安は痛覚を増強します。
  • 針を見せずに操作することが有効です。

注意をそらす(Distraction)

  • 会話や音楽、呼吸法などで患者の意識を別方向に向けると痛みが軽減されます。

 

4. 針の刺入

90°で垂直に刺入

  • 45°よりも90°で垂直に刺す方が、通過する神経終末が少なく、痛みが軽減されます。
45度で刺入するよりも、90度で刺入したほうが刺激される神経線維が少なく、痛みも軽減される。

45度で刺入するよりも、90度で刺入したほうが刺激される神経線維が少なく、痛みも軽減される。

  • 皮膚を軽くつまみながら刺入することで、針の挿入が安定し、神経への刺激を最小限に抑えます。
皮膚を軽くつまみながら刺入することで、針の挿入が安定し、神経への刺激を最小限に抑える。

皮膚を軽くつまみながら刺入することで、針の挿入が安定し、神経への刺激を最小限に抑える。

 

開放創があれば皮下脂肪に刺入

  • 皮膚よりも皮下脂肪には神経が少ないため、皮膚側よりも痛みが少ないです。
皮膚内への注射は痛みが強く、皮下への注射は痛みが少ない。神経密度の高い真皮を避け、皮下へ麻酔薬を注入することが重要。

皮膚内への注射は痛みが強く、皮下への注射は痛みが少ない。神経密度の高い真皮を避け、皮下へ麻酔薬を注入することが重要。

 

刺入後、まず0.2〜0.5mlを注入して待つ

  • 初回注入で局所を麻酔し、15〜45秒間待機
  • 患者が「痛みが消えた」と答えてから本注入を開始すると無痛で進められます。
初回に0.2~0.5mlを注入して局所を麻酔し、15~45秒待機した後に本注入を行うことで、患者が痛みを感じにくくなる。

初回に0.2~0.5mlを注入して局所を麻酔し、15~45秒待機した後に本注入を行うことで、患者が痛みを感じにくくなる。

 

5. 注入の工夫

ゆっくり注入する

  • 急速注入は急激な組織伸展を生じ、強い疼痛を誘発します。
  • 「Blow slow before you go(進む前にゆっくり注入)」を意識しましょう。

局所麻酔の膨隆を針先10mm先に維持

  • 針先より常に10mm前方に麻酔液が広がるように保ち、無麻酔領域に針先が入らないようにします。
針を進める際は、針先の10mm前方に常に膨隆した局所麻酔液を保ちながら、真皮下をゆっくりと進める。もう一方の手で膨隆の範囲を触知して確認することができる(“blow slow before you go”)

針を進める際は、針先の10mm前方に常に膨隆した局所麻酔液を保ちながら、真皮下をゆっくりと進める。もう一方の手で膨隆の範囲を触知して確認することができる(“blow slow before you go”)

 

再刺入はブランチ部から1cm以内

  • 広範囲を麻酔する場合は、エピネフリンで十分にブランチング(局所麻酔薬+エピネフリンが十分に作用しているサイン)した領域から再刺入することで、無痛操作が可能となります。

 

6. その他の補助方法

皮膚冷却

  • 注射前に氷(保冷剤)で冷却すると疼痛軽減に有効。

 

振動や圧迫刺激

  • 注射部位付近を押す・つねる・振動させることで痛覚の「ゲート」を閉じ、痛みを減らせます。
振動麻酔デバイス(Vibration Anesthesia Device)

振動麻酔デバイス(Vibration Anesthesia Device)を使用することで、振動刺激によって痛みの神経伝達をブロックし、注射時の疼痛を軽減する。

 

まとめ

  1. pH調整と加温
  2. 細い針と使い捨て
  3. 視覚遮断と注意そらし
  4. 90°垂直刺入と初回少量注入
  5. ゆっくり進める注入操作
    が重要です。

局所麻酔注射の疼痛軽減には、これらを組み合わせることで、患者が感じる痛みを「最初の針刺しだけ」に抑えることが可能になるよ。
指導医

参考文献

  • Strazar AR, Leynes PG, Lalonde DH. Minimizing the pain of local anesthesia injection. Plast Reconstr Surg. 2013;132(3):675-684.

 

局所麻酔注射時の痛みを軽減するためには、手技の工夫に加えて適切な補助器具の活用も効果的だよ。 特に、振動刺激を利用して痛覚を抑制するデバイスや、麻酔薬を温めるツールは、臨床現場での快適性を大きく向上させるよ。
指導医

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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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