Key Point Summary
腋窩ブロックは上肢手術において有用な麻酔法である。
エコーガイド下でおこなうことで、より確実にブロックすることが可能である。
正中神経(MN)、橈骨神経(RN)、尺骨神経(UN)、筋皮神経(McN)の4本をブロックする。
誤って血管内に注入しないように逆血がないことを確認してから薬液を注入する。
Q & A
Outline
【概要】
- 腋窩ブロックは上肢手術において有用な麻酔法である。
- エコーガイド下でおこなうことで、より確実にブロックすることが可能である。
- 正中神経(MN)、橈骨神経(RN)、尺骨神経(UN)、筋皮神経(McN)の4本をブロックする。
- 麻酔後は上肢が麻痺するため、三角巾などで保持して帰宅する。
【解剖】
- 腋窩レベルでは、正中神経は腋窩動脈の前外側、尺骨神経は内側に、橈骨神経は背側に存在している。筋皮神経は腋窩動脈の外側に離れて位置し、烏口腕筋内もしくは上腕二頭筋と烏口腕筋の間に存在している。
- なお、腋窩動脈の周囲には静脈が存在している。
【準備物品】
- 0.75%アナペイン1本(20ml)と1%キシロカイン20ml
- 20mlのロック付きシリンジ 2本
- 23Gカテラン針
- 延長チューブ(径が細いもの)
- ヒビテン、綿球
Step by Step
■ Step 1
- 手台とエコーを使用する。患者の腋窩部には吸水シートを敷いておくとよい。
- 患者:仰臥位で肩関節は外転90°で肘はやや屈曲させる。
- 麻酔施行者:手台の足側に座る。
- 麻酔介助者:患者の頭側に立ち、患者の表情、エコーがのぞけるようにする。
- エコー:手台の頭側に設置する。
■ Step 2
- 腋窩部をヒビテンで消毒する。
- エコープローブにゼリー or ヒビテン消毒液をつけて腋窩動脈(AA)から探す。
- エコープローブを強く押し当てると、腋窩静脈(AV)が虚脱してみえなくなるので、腋窩動脈とその周囲の神経を同定しやすくなる。
- 腋窩動脈(AA)を時計にみたてると、正中神経(MN)は10時、尺骨神経(UN)は2時、橈骨神経(RN)は6時に位置する(エコープローブをあてる角度により若干ずれる)。
腋窩動脈(AA)は、円形で拍動している。
橈骨神経は同定しづらいことが多い。エコーで同定できなくても、腋窩動脈の裏面に走行しているものとしてブロックする。
■ Step 3
- ブロックは正中神経(MN)からおこなう。
- 23Gカテラン針は平行法(エコープローブの長軸方向から)で刺入し、画面を見ながら神経に向けてすすめていく。
- 針先が神経に達すると、放散痛があるので部位を確認する。患者には穿刺前に「手指にビリッときたら、きた!と教えてください。その後、何指にビリッときたか教えてください。」と話しておく。
- 「母指 or 示指 or 中指(=正中神経の支配領域)にビリッときました。」というのを確認したら、血液の逆血がないことを必ず確認して、5cc注入する。
麻酔施行時にはエコープローブを押しつけて、静脈をつぶしておくと、解剖がわかりやすいうえに、誤って静脈内に薬液を注入するリスクを軽減できる。
1番効かせたい神経を最初にブロックするやり方もある。薬液を注入すると血管や神経が押しやられて解剖がわかりづらくなる。またブロックしていない神経にも少なからず麻酔がきいて、放散痛がわかりづらくなるためである。
注入前に逆血がないことを確認すること、注入中は針先を動かさないことが腋窩ブロックを安全におこなうための最大のコツである。
■ Step 4
- 橈骨神経(RN)、尺骨神経(UN)も同様に5ccずつ注入する。
- 橈骨神経(RN)をブロックする際は、正中神経(MN)をブロックした刺入針を皮膚直下まで引き抜いて、角度をかえて腋窩動脈の裏面(6時の位置)を狙って刺入する。橈骨神経(RN)の放散痛はわからないことが多い。
- 尺骨神経(UN)をブロックする際は、一旦針をぬいて、プローブの下方(内側)から針を刺入する。
■ Step 5
- 正中(MN)、橈骨(RN)、尺骨神経(UN)をブロックしたら、一旦針を抜き、最後に筋皮神経(McN)をブロックする。
- プローブを上方(外側)に滑らせると、筋肉内に高輝度にうつる筋皮神経(McN)を確認できる。
- 針先が神経に達すると、患者は「肘がずーんと重いです」と言う。
- 血液の逆血がないことを必ず確認して、5cc注入する。
■ Step 6
- 10〜15分ほど待つ。
この間にドレーピングをおこなうとよい。
■ Step 7
- 麻酔の効きを確認する。
- 正中神経(MN)は母指~中指の屈曲で、尺骨神経(UN)は小指の屈曲で、橈骨神経(RN)は肘・手関節・手指の伸展で、筋皮神経は肘の屈曲で判定する。麻酔がしっかり効いていれば、自動運動ができないか、運動の減弱がある。
- またアルコール綿等を使って、知覚でもそれぞれの神経の麻酔の効き具合を評価する。麻酔が効いているとアルコール綿で触っても冷たく感じなくなる。
■ 参考図書
- 向田雅司. 手指の手術に有効な麻酔