その他

【診療Tips】漢方薬処方の基本原則|併用は2処方まで・甘草と麻黄の重複に注意【医療者向け】

漢方薬処方の基本原則

  • 漢方を扱っている製薬会社の担当者への確認によると、漢方薬の併用は一般的には「2種類まで」が推奨されます。
  • これは、漢方治療に精通していない一般医師が安全に使用するための目安であり、熟練した東洋医学専門医は症状に応じて3処方以上を組み合わせる場合もあります。

 

本記事は、医療従事者を対象とした専門的な解説です。 患者さんが自己判断で服薬することは避け、必ず医師・薬剤師の管理下で行う必要があります。
指導医

 

漢方処方時に成分の重複に注意を!

 

なぜ2処方までか?

  1. 生薬成分の重複による副作用リスク回避

    • 例:甘草(カンゾウ)麻黄(マオウ)が複数処方に含まれ、合計量が過剰になる。

    • 成分量が増えると、副作用(偽アルドステロン症や交感神経刺激症状)が顕在化する可能性が高まります。

  2. 薬効評価を明確にするため

    • 3処方以上を同時に開始すると、どの処方が有効か、または副作用を起こしているか判断が困難になります。

  3. 患者服薬アドヒアランスの維持

    • 漢方薬は1日2~3回服用が必要なため、処方数が多いと飲み忘れや誤服用が増えます。

 

注意すべき代表的な生薬と副作用

甘草(カンゾウ)

  • 主成分:グリチルリチン

  • 過剰服用で偽アルドステロン症を引き起こす可能性

  • 症状:

    • 高血圧

    • 浮腫

    • 低カリウム血症(筋力低下、不整脈)

  • 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」では、1日2.5g以上の長期投与でリスクが上昇するとされ、腎機能障害・高血圧・電解質異常がある患者では特に注意が必要と記載されています。


麻黄(マオウ)

  • 含有成分:エフェドリン類

  • 中枢・末梢交感神経刺激作用により副作用が出現

  • 症状:

    • 不眠、興奮、動悸、発汗

    • 高血圧、頻脈

  • 気管支拡張薬や交感神経刺激薬との併用は特に注意。


その他注意すべき生薬

生薬主な副作用注意点
附子(ぶし)しびれ、悪心、心室性不整脈過剰投与で心毒性
大黄(だいおう)下痢、腹痛、低カリウム血症下剤成分との併用注意

 

 

医療者が行うべき管理のポイント

  1. 処方前に成分量を確認する

    • 甘草や麻黄を含む処方は、添付文書で1日あたりの含有量を確認する。

    • 特に2処方以上併用する場合は合算する。

  2. 患者背景をチェックする

    • 高血圧、腎機能障害、心疾患、電解質異常がある患者はリスクが高い。

    • 高齢者は副作用発現が顕著になりやすいため慎重に投与。

  3. モニタリング

    • 血圧、浮腫の有無、血清カリウム値を定期的に測定。

    • 特に甘草併用時は低カリウム血症の早期発見が重要。

  4. 処方のステップアップ

    • まず単剤で開始し、効果が不十分なら2処方目を追加。

    • 症状改善後は中止または減量を検討する。

含有量の目安

1. 麻黄(マオウ)の1日含有量目安

項目内容
主要成分エフェドリン類(交感神経刺激作用)
1日あたりの目安5.0 g(生薬量)以下
安全域4.5〜5.0 gまでが一般的な最大量
主な含有処方麻黄湯、小青竜湯、葛根湯、防風通聖散など
注意点交感神経刺激作用により、不眠、動悸、血圧上昇などが出やすい。高血圧・心疾患・甲状腺機能亢進症の患者では慎重投与。

例:ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用)
1日7.5g中に「麻黄 3.0g」含有
→ 併用で麻黄が重複すると合計5.0gを超えないように管理する必要あり

2. 甘草(カンゾウ)の1日含有量目安

項目内容
主要成分グリチルリチン(偽アルドステロン症の原因成分)
1日あたりの目安2.5 g(生薬量)以下
安全域1.5〜2.5 gまで
主な含有処方小青竜湯、葛根湯、抑肝散、補中益気湯、半夏厚朴湯など多数
注意点長期服用・高齢者・腎機能障害・利尿薬併用でリスク増大。低カリウム血症、高血圧、浮腫、不整脈に注意。

例:ツムラ抑肝散エキス顆粒
1日7.5g中に「甘草 1.5g」含有
→ 2処方併用時、甘草の合計が2.5gを超えると副作用リスク上昇

 

文献・ガイドラインからの推奨

  • 嶋田豊ら「注意しておきたい漢方診療上の副作用」では、
    麻黄による興奮、不眠、交感神経刺激作用」「甘草による偽アルドステロン症」が特に注意すべき副作用として挙げられています。

  • 厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル(第二版)」では、グリチルリチン含有製剤の長期使用に伴う偽アルドステロン症の記載があり、患者背景や併用薬を考慮した適正使用が求められています。

 

参考文献

 

まとめ

  • 漢方薬は原則2処方までが推奨され、重複する生薬による副作用リスクを避けることが重要。

  • 特に甘草と麻黄は含有量の合算管理を徹底する。

  • 患者背景を確認し、血圧や血清カリウム値を定期的にモニタリングすることで副作用を早期発見できる。

  • 安全で効果的な漢方治療には、西洋医学と東洋医学双方の視点が不可欠です。

「証」の考え方をわかりやすく解説。写真や症例を豊富に掲載している外来診療ですぐ使える「漢方的診断の実践書」だよ。
指導医

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

-その他
-, , , , , , , ,

© 2025 マイナー外科・救急 Powered by AFFINGER5