Key Point Summary
粉瘤の手術法の1つであるくり抜き法(=へそ抜き法)を解説する。
くり抜き法は、炎症をおこしている粉瘤や、きずあとを極力小さくしたい顔の粉瘤によい適応である。
一方で、炎症や切開排膿を繰り返していている粉瘤や、手掌や足底に発生する粉瘤では、従来法を選択したほうがよい。
Outline
【解剖】
- 表皮ないしは毛包漏斗部由来の上皮成分が真皮内に陥入し、袋状構造物ができたもの(そのため、表皮嚢腫(epidermal cyst)や毛包嚢腫とも呼ばれる)。
- 嚢腫壁の内部には角質と皮脂(いわゆる垢)が溜まっている。この垢の塊が粉のようにみえるので粉瘤と呼ばれる。内容物は垢なので、独特なにおいがある。
従来法
- 皮膚開口部を中心に含めて皮膚を紡錘形に切開する。さらに直下の嚢腫壁を破らないように剥離し、"皮膚開口部-嚢腫"を一塊にすべて摘出する方法。
- "皮膚開口部ー嚢腫"を破らずに確実に切除できれば、再発は少ない。
- 皮膚は縫合し、約1週間で抜糸する。
くり抜き法
- 皮膚開口部(へそ、と呼ばれる)を中心に含んで、周囲の皮膚を円柱状に切除する。通常は直径3〜5mmのディスポーザブルパンチ(円筒状のメス)を用いる。
- 嚢腫を指で摘まんで、中身(角質&皮脂)を押し出す。
- 中身を押し出した後に皮膚をよく揉むと、嚢腫壁が周囲からはがれる。嚢腫壁の端を鑷子で把持して、剥離剪刀で丁寧に剥離し、萎んだ嚢腫壁を摘出する。
- 皮膚縫合はしてもしなくてもよい。縫合する場合は約1週間で抜糸、縫合せずに二次治癒させる場合は約2週間で上皮化する。
くり抜き法の適応
【適応】
- 炎症をおこしている粉瘤
- 顔の粉瘤 → きずあとを極力小さくしたい場合
- 炎症や切開排膿を繰り返していて嚢腫が瘢痕に埋もれている症例
- 手掌や足底に発生する粉瘤
Step by Step
■ Step 1
- 1%Eキシロカインで局所浸潤麻酔する。
腫瘍の周囲の皮下に、四角形を描くように局所麻酔薬を注射する。
麻酔が効くまで5分程度待つ。
■ Step 2
- 5mmのディスポーザブルパンチ(円筒状のメス)で、皮膚開口部を含めて皮膚を円柱状にくり抜く。
ディスポーザブルパンチを皮膚に垂直に時計回り&反時計周りに回しながら軸圧方向に押しつける。皮膚の厚さは体の部位によって異なり、背中はかなり厚い。パンチの先端が皮膚を貫通して皮下脂肪に達すると軸圧方向の抵抗が急に弱くなる。
■ Step 3
- くり抜いた円柱状の皮膚を切除する。
- 深部に嚢腫内部の角質&皮脂が確認できる。
深部がくっついている場合は、剪刀で切除する。
■ Step 4
- 嚢腫を指で摘まんで、中身(角質&皮脂)を押し出す。
■ Step 5
- 中身を押し出した後に皮膚をよく揉むと、嚢腫壁が周囲からはがれる。
- 嚢腫壁の端を鑷子で把持して、剥離剪刀で丁寧に剥離し、萎んだ嚢腫壁を摘出する。
■ Step 6
- 萎んだ風船のようになった嚢腫壁を摘出する。
- 病理組織検査に提出する。
■ Step 7
- 内腔に嚢腫壁の残存がないことを確認して、生理食塩水で洗浄する。
■ Step 8
- 皮膚縫合はしてもしなくてもよい。縫合する場合は約1週間で抜糸、縫合せずに二次治癒させる場合は約2週間で上皮化する。
- 本症例では7−0ナイロンで巾着縫合した。
■ Step 9
- 綿球またはガーゼを厚めに折り畳んで圧迫する。
- 布テープで固定する。
布テープでかぶれないように皮膚被膜剤スプレーを散布するとよい。
■ Step 10
- 保冷材で5〜10分ほど冷却してから、手術終了とする。
■ 術後
- 自宅でも保冷材で冷却して、患部の安静を保つ。
- 入浴、お酒、激しい運動×
- 術翌日から自宅でシャワー洗浄処置とする。シャワー洗浄(石鹸、シャンプーも可)、タオルで水分をふきとって、ゲンタシン軟膏、ガーゼテープ(または浸出液が少なければ絆創膏)。
- 抜糸は術後1週で可能である。
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 2日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 2日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 2日分
- ゲンタシン軟膏 10g 1本
■ コスト
- 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)(K005)