Key Point Summary
背側中手動脈穿通枝皮弁: Dorsal Metacarpal Artery Perforator (DMAP) flap 第2〜4指間の中手骨頸部(腱間結合のすぐ遠位)から起ち上がる穿通枝を茎にした穿通枝皮弁である。 皮島を約180°回転することでPIP関節まで安全に被覆できる。 皮弁採取部を縫縮後の縦方向の瘢痕が目立つことがあるので術前に説明しておく。
Q & A
背側中手動脈を穿通枝分岐部より中枢側で切離して、皮弁を末梢側の移動距離を確保する。
Outline
【概要】
- 背側中手動脈穿通枝皮弁: Dorsal Metacarpal Artery Perforator (DMAP) flap
- DMAP flapは第2〜4指間の中手骨頸部(腱間結合のすぐ遠位)から起ち上がる穿通枝を茎にした皮弁であり、皮島を約180°回転することでPIP関節まで安全に被覆できる。
- 穿通枝周囲の脂肪を極力温存することで静脈還流が安定する。
【解剖】
- 穿通枝は通常、第2〜4指間の腱間結合のすぐ遠位、つまり中手骨頸部付近に確認できる。
- 皮弁はこの穿通枝を含んだ紡錘形に作図し、遠位は中手骨頭、近位は伸筋支帯遠位、側面は隣接した中手骨外側縁がおおよその生着範囲である。
【手術適応】
- 適応:PIP関節〜基節骨の背側(or 側面)の皮膚欠損
- 適応外:手背の圧挫 and/or 中手骨頸部骨折を合併する症例(穿通枝やその伴走静脈が損傷している可能性があるため)
- 適応外:欠損が感染創の場合(本皮弁は血流量が少ない皮弁のため、感染による炎症で容易に皮弁血流障害が生じるため)
【診察】
- 欠損が生じる原因となった外傷機転を聴取し、穿通枝やその伴走静脈の損傷の可能性がないかを確認する。具体的には、手背の圧挫がないか、挫創が指間部に及んでいないか、指ブロック麻酔の際に内出血していないか、などである
- 欠損周囲の発赤・腫脹の有無を確認し、あればそれらを沈静化させてからの皮弁閉創が望ましい。
【検査】
- 術前の穿通枝の確認は必ずしも必要ないが、慣れないうちはサウンドドップラー、カラードップラーでの術前マーキングを推奨する。
- 穿通枝は常に存在し、もし背側中手動脈が欠損していたとしても深掌動脈からの枝が存在する。
【画像】
- Xpが有用である。
- 特に深部の骨折(中手骨頸部骨折など)を伴う場合は穿通枝も損傷されている可能性があるので適応を慎重に判断する。
【患者説明】
- 本皮弁を挙上する際には橈骨動脈浅枝を部分的に損傷 or 意図的に結紮する可能性がある。術後の感覚障害に関して術前説明が必要である。
- 皮弁採取部を縫縮後の縦方向の瘢痕が目立つことがある。
【体位・肢位】
- 仰臥位、手台を使用する。
- 駆血帯(ターニケット)を使用し無血野での手術を推奨する。通常、皮弁移植前(回転前)に駆血帯を解除し皮弁血流を確認する。
- 手術用ルーペ or 顕微鏡下による手術が望ましい。
Step by Step
■ Step 1
- 皮弁を作図する。穿通枝の位置が皮弁回転時のピボットポイントになる。提示症例では皮弁茎の部分を真皮脂肪としているが、穿通枝を含めた紡錘形の作図が一般的である。
穿通枝から欠損遠位までの距離よりも穿通枝から皮弁近位までの位置は10〜20%長くなるように作図する。
皮弁をやや長く採取したい場合は、皮島を斜めに作図する。
■ Step 2
- 皮弁を側方縁、内側または外側のいずれでも可、から挙上する。伸筋腱上の薄い膜(パラテノン)上の層で皮弁を挙上する。
- 皮静脈は皮弁に含める、橈骨神経浅枝は極力温存するが皮弁茎に近い細い枝は結紮、メスで切離して皮弁に含める。
皮弁は15番メスで挙上し、鑷子で鈍的に摘ままず、常にatraumaticな扱いを心がける。
パラテノンを損傷して伸筋腱が露出すると癒着の原因となる。
橈骨神経浅枝を過剰に牽引したり、鑷子で不用意に摘むと術後の神経症状の訴えが強くなる。
■ Step 3
- 皮弁の近位縁を切開し、さらに反対側の側方縁も切開して皮弁を遠位から持ち上げるように挙上していく。
- この際、皮弁遠位2/3は素早く挙上し、腱間結合を確認したら、そのすぐ遠位から穿通枝が起ちあがるので慎重に挙上する。
■ Step 4
- 穿通枝周囲は、線維性索状物のみ切離し、軟部組織は極力温存する。
穿通枝は周囲の脂肪を剥離して完全な血管茎にするべきではない。周囲の脂肪組織内に皮弁の静脈還流となる細い静脈を含んでいるためである。
■ Step 5
- 皮弁を約180°回転して欠損部に移動し、その際に皮弁回転の妨げとなる索状物を切離していく。
- 欠損部と皮弁採取部の間は皮下トンネルとしてもよいし、皮膚切開してつなげてもよい。前者のほうが術後の瘢痕拘縮を予防できる。
■ Step 6
- 皮弁が欠損遠位まで十分に届くことを確認したら、ドナーの真皮縫合だけ粗くおこなっておく。
駆血帯解除後は組織腫脹により皮弁採取部の縫縮がやりづらくなるため、駆血帯解除前に皮弁採取部をある程度閉創しておくとよい。
■ Step 7
- 駆血帯を解除して皮弁に血液が流入するのを待つ。
- 皮弁遠位まで血液が十分に流入し血行が安定するまで10〜15分ほどかかる。この間に皮弁採取部の縫合をおこなう。
■ Step 8
- 皮膚縫合をする。皮下ドレーンを留置する。
術後は患肢挙上するので縫合創の中枢側からドレナージされるようにドレーンを留置する。
皮弁下の血腫は術後1週間ぐらいしてから感染をきたすことがあるので、しっかりとドレーンを効かせる。この場合の感染では皮弁遠位の腫脹が強くなり、赤み・水疱が出現する。)
■ Step 8
- 指間にさばきガーゼをあてがい、さらに手指を伸展位で掌側からシーネ外固定をしたうえで、患肢を挙上する。掌側からシーネをあてるのは、シーネで皮弁を圧迫しないためである。
手指(特にMP関節、PIP関節)を伸展位にしないと指の屈曲の度に皮弁に緊張がかかり、皮弁の血行障害、創離開のリスクが高まる。
■ 術後
- 手術当日(帰室後)、患肢挙上が適切にできているか、皮弁が圧迫されていないか確認する。
- ドレーンは術後1〜2日で抜去する。
- 術後1週経過して皮弁血行、縫合部に問題がなければ、患指のMP関節とPIP関節の屈曲を制限付きで開始し(最初はそれぞれ30°までなど)、徐々に屈曲角度をあげていく。
- 抜糸は術後10〜14日が目途である。
伸展位にしたまま固定期間が長いと伸筋腱が癒着し、伸展拘縮、屈曲不全をきたす。
手背の皮弁採取部や皮弁周囲の縫合部が肥厚性瘢痕化する場合は、ステロイドテープ(エクラープラスター)貼付を開始する。
■ アウトカム・エビデンス
- Quaba AA, Davison PM. The distally-based dorsal hand flap. Br J Plast Surg.1990;43:28-39.
本皮弁を最初に報告した1990年のDr. Quabaの論文である。18例の死体解剖をもとに、全例で腱間結合の遠位から背側中手骨動脈からの穿通枝を確認した。21例の臨床例を報告し、合併症は皮弁の部分壊死1例、完全壊死1例であったと報告している。
- Sebastin SJ, Chong AK, Peng YP, et al: Dorsal metacarpal artery perforator flap for resurfacing soft tissue defects proximal to the fingertip. Plast Reconstr Surg. 2011;128:166r-178e.
著者らはDMAP flap、56皮弁の臨床成績を報告している。皮弁サイズの平均は4.6 × 2.3 cmで、7皮弁で皮弁採取部に植皮を要した。合併症は6皮弁でうっ血、3例で虚血と認め、虚血うちの2例は完全壊死に至った。DMAP flapは中節骨中間部までは安全に被覆可能であると報告している。
■ 処方箋
- セファゾリンNa点滴静注用1gバック 1日3回 3日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 7日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 7日分
- ゲンタシン軟膏 10g 1本
■ コスト
- 動脈皮弁術(K016)
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