Key Point Summary
指粘液嚢腫はDIP関節の変形性関節症に続発する。 背側関節包から発生した茎が嚢腫に連続しており、DIP関節から発生したガングリオンと考えられている。 治療: 嚢腫の切除ではなく、嚢腫茎の処理(切除して関節内の滑膜を切除すること)である。 術後はDIP関節をシーネで伸展位固定し、関節包が瘢痕で被覆されるのを待つ。
Q & A
Outline
【病因】
- ① 皮膚の変性が原因とするMyxomatous typeと、② DIP関節からのガングリオンとするGanglion typeの2つの説がある。
- 現在は②が原因とする意見が主流である。
- 指粘液嚢腫はDIP関節の変形性関節症に続発する。背側関節包から発生した茎が嚢腫に連続しており、DIP関節から発生したガングリオンと考えられている。
- DIP関節内の滑膜炎が原因で関節包の弱い部分(通常は背側関節包)に亀裂が生じ、内圧の上昇に耐えかねて嚢腫が飛び出る。そのため嚢腫の中身は関節液(ゼリー)である。関節包から起ち上がる細い部分は茎(root)と呼ばれ、check valve構造(関節内→嚢腫は流れる、嚢腫→関節内は流れない)をしていると言われている。
【治療法の変遷】
- 1970年代までは嚢腫穿刺&ステロイド注射、嚢腫切除のみで、再発率が高かった。
- 1970年代以降、骨棘切除が推奨された。
- 近年は、骨棘切除は不要とする報告もあり、関節包や滑膜の切除の有用性が注目されている。
Step by Step
■ Step 1
- 指ブロック注射をする。
- 1%キシロカイン10cc または 0.75%アナペイン10ccを注射する。
- 滅菌手袋で指タニケットをする。
■ Step 2
- T字型 or L字型の皮膚切開線を作図しする。
- 皮膚切開線がDIP関節の皮線と側正中線に合わせるようにする。
以前は終末伸筋腱を挟んだ対側に隠れた嚢腫(occult cyst)も確認して切除することが推奨されていたが、現在は嚢腫側のみの片側アプローチが推奨されている。
■ Step 3
- 関節包上の層で皮弁上に挙上すると、背側に終末伸筋腱、掌側に側副靱帯を確認できる。
- その間が背側関節包と呼ばれる。構造上弱い部分になる。この部分から嚢腫側に起ち上がる茎(root)が確認できる。
- 皮弁挙上の際に茎を切離するとゼリーが漏出する。
嚢腫が萎んでいる症例では茎が確認しづらいことがある。その場合は、皮弁の裏面から嚢腫方向にメスで孔をあけてドレナージするようにしている。
■ Step 4
- DIP関節を他動的に屈曲すると関節内のゼリーが漏出する。
- ゼリーが出てくる孔をメスで四角に切開し、その深部にある滑膜を先の細いモスキートで可及的に切除する。
■ Step 5
- 5−0ナイロンで皮膚縫合する。
嚢腫は切除せず、茎を処理することで、まるで萎んだ風船のようになる。
■ Step 6
- ゲンタシン軟膏を貼付し、ガーゼ、布テープで軽く圧迫固定する。
■ 術後
- 当日は、安静、患部冷却、患手挙上を徹底する。
- 術翌日から自宅処置(シャワー or 水道水洗浄、ゲンタシン軟膏、ガーゼを薄めに貼付、テープ固定)を開始する。
- 指背側からアルフェンスシーネ外固定する(DIP関節伸展位、PIP関節はフリーで動かせるように)。
- 抜糸は術後2週間が目安である。
術後2週間は、アルフェンスシーネでDIP関節の動きを制限することが重要である。その間に開放した関節包が線維性被膜で覆われる。
術後2週間経過したら、日中は制限なしで患指の使用を許可し、夜間のみアルフェンスシーネで伸展位固定をさらに2週間継続する。
介護職など指先に負荷がかかる場合はコーバンテープやサージカルテープをDIP周囲にまいて仕事をするとよい。また指用のゴム製サポーターも有用である。
コーバンテープ 3Mヘルスケア
指関節まもりん サンメディカル
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
- ゲンタシン軟膏 10g 1本
■ コスト
- 病名に「粘液嚢腫 or ガングリオン」を記載しガングリオン摘出術(K070 指)3050点
- 病名に「変形性関節症」を記載して、骨部分切除術(K049 指)3280点
- 病名に「関節滑膜炎」を記載して、関節滑膜膜切除術(K066 指)7930点
■ 長期経過
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