手外科

【診療Tips】手指の変形性関節症において痛みが強い人と強くない人がいるのはなぜ?

はじめに

  • 手指の変形性関節症(Hand Osteoarthritis, Hand OA)は、中高年女性を中心に多くみられる疾患です。
  • しかし、同じようにレントゲンで変形が進んでいるにもかかわらず、「強い痛みで日常生活に支障がある人」と「見た目は変形していてもほとんど痛みを感じない人」が存在します。なぜこのような違いが生じるのでしょうか?
手指OAによる痛み

手指OAによる痛み

 

1. 痛みの発生源の多様性

  • 関節痛は単に「軟骨がすり減る」ことだけでは説明できません。実際の痛みの主な発生源は以下です。

    • 滑膜炎:エストロゲン低下や機械的負荷による炎症

    • 関節包・靱帯:伸展・微小損傷による疼痛

    • 骨内圧上昇:骨髄浮腫がMRIで確認されることがある

    同じ関節変形の程度でも、炎症の強さが違えば痛みの感じ方も異なります

 

2. 画像所見と痛みの乖離

  • レントゲンは骨棘や関節裂隙狭小化など「構造的変化」しか映しません。

  • 一方で痛みは滑膜炎や骨髄浮腫など「炎症性変化」に強く関連し、これはMRIや超音波で評価されます。

  • そのため、Kellgren-Lawrence分類のGradeが同じでも痛みの強さは異なることがしばしばあります。

 

3. 個人差(痛み感受性の違い)

  • 中枢性感作(Central Sensitization):慢性痛の一部では、脊髄や脳で痛み信号が過敏に処理され、実際の組織損傷以上に痛みを感じやすくなります。

  • 心理社会的要因:更年期症状、不安・抑うつ、ストレスが痛みの増幅に関与します。

  • 生活背景:指を使う仕事や趣味(手芸、ピアノ、調理など)によって、症状の自覚に差が出やすいです。

 

4. 臨床的示唆

  • 「レントゲンで重度だから痛みも強いはず」とは限らない

  • 治療方針決定には画像+症状+生活背景を統合的に評価する必要がある

  • 「痛みの強さには個人差がある」ことを患者に説明することで、納得感とアドヒアランスが向上する

手指OAに伴って炎症所見があっても痛みが目立たない人に、粘液嚢腫(digital mucous cyst)が発生しやすいよ。
指導医

 

まとめ

  • 手指OAの痛みは、滑膜炎や骨髄浮腫など炎症所見の影響が大きい

  • 画像所見と痛みは必ずしも一致しない

  • 中枢性感作や心理社会的要因も痛みの個人差に寄与する

  • 治療は「レントゲンの重症度」ではなく「患者の痛みと生活への影響」を軸に考えることが重要

 

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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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