手外科

【診療Tips】手指の変形性関節症と女性ホルモンの関係

はじめに

  • 手指の変形性関節症(Heberden結節やBouchard結節を代表とする疾患)は、特に中高年女性に多くみられます。
  • その背景には機械的負荷だけでなく、女性ホルモン(エストロゲン)低下が関与していると考えられています。
手指の変形性関節症:関節周囲に腫れや変形がみられる

手指の変形性関節症:関節周囲に腫れや変形がみられる

 

女性ホルモンと関節の関係

  • エストロゲンには、関節軟骨や滑膜の炎症を抑制し、骨吸収を抑える作用があります。
  • 閉経後にエストロゲンが急激に減少すると、関節の炎症コントロールが不十分となり、滑膜が腫脹しやすくなります。これが腫れや痛みの悪化につながり、関節破壊が進行する一因と考えられています。
女性ホルモン低下による滑膜炎と更年期手(Menopausal Hand)

女性ホルモン低下による滑膜炎と更年期手(Menopausal Hand)

 

病態の特徴

  • 滑膜炎の増悪:エストロゲン低下により炎症性サイトカインの発現が増加し、滑膜肥厚が進行。

  • 骨・軟骨代謝の変化:エストロゲンが減少すると骨吸収が優位となり、関節周囲の骨硬化や骨棘形成を助長。

  • 性差:閉経期を境に女性に発症が集中する点は、ホルモン因子の影響を裏付ける。

レジデント
手指の変形性関節症が圧倒的に女性に多いのは、エストロゲンの関与があるためですね!
指関節のX線像:関節裂隙の狭小化と骨棘形成

指関節のX線像:関節裂隙の狭小化と骨棘形成

 

臨床的示唆

  • 中高年女性に対する問診では、閉経時期や更年期症状の有無を確認すると病態理解につながる。

  • ホルモン補充療法(HRT)が手指変形性関節症の進行抑制に寄与する可能性も指摘されているが、十分なエビデンスは未確立であり、慎重な適応判断が必要。

  • NSAIDsや外用薬、装具療法に加え、患者教育として「女性ホルモン低下と炎症悪化の関連」を説明することで納得感が高まる。

50代女性の手指の痛みや腫れは女性ホルモンが関与している可能性が高いよ。多くの患者さんは、原因がわからず不安になっているので、痛みや腫れがなぜ生じるのか説明してあげると安心するよ。
指導医

 

まとめ

  • 手指の変形性関節症は中高年女性に多い。

  • 女性ホルモン(エストロゲン)の低下により滑膜炎が助長され、病態が進行しやすい。

  • 臨床現場では、閉経期との関連を念頭に置き、治療・説明を工夫することが重要。

手指の変形性関節症に対して、根本的な治療は難しいのが現状です。そのため、生活習慣の工夫や栄養補助が注目されています。 大豆イソフラボンから腸内細菌によって産生される「エクオール」は、女性ホルモンのような働きを示すことで知られており、閉経後の関節症状や更年期症状の緩和に役立つ可能性が報告されています。 特に日本人では、腸内でエクオールを産生できる人が約半数に限られるため、サプリメントとして補うことが有効と考えられます。
指導医

 

 

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小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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