形成外科 手外科 皮膚科

【Step by Step 手術手技】手掌・指腹部の粉瘤(外傷性表皮嚢腫)

Key Point Summary

手掌・足底は解剖学的に毛がない部位だが、粉瘤が発生する。

(そのため毛包嚢腫ではなく表皮嚢腫とよぶ)

外傷による表皮成分の埋入やHPV(ヒトパピローマウイルス)感染などが関与するといわれている。

 

 

 

Outline

【解剖】

  • 粉瘤は、表皮ないしは毛包漏斗部由来の上皮成分が真皮内に陥入し袋状構造物ができたもの(そのため、表皮嚢腫(epidermal cyst)毛包嚢腫とも呼ばれる)。
  • 嚢腫壁の内部には角質と皮脂(いわゆる垢)が溜まっている。この垢の塊が粉のようにみえるので粉瘤と呼ばれる。内容物は垢なので、独特なにおいがある。
  • 毛のない手掌・足底にも発生することがあり、これは外傷性表皮嚢腫と呼ばれる(毛が関与しないので毛包嚢腫とは呼ばない)。手掌・足底の小さな外傷から皮膚の一部が埋入することで生じるといわれている。またHPV(ヒトパピローマウイルス)の関与も指摘されている。

表皮嚢腫の構造

 

 

【鑑別診断】

右示指の基部掌側に直径1cmのしこりを触知する。

  • 指腹部のしこりの鑑別診断としては、①粉瘤、②腱鞘ガングリオン、③腱鞘巨細胞腫などが挙げられる。
  • 触診で①②③はいずれも弾性やや硬〜硬の腫瘤を触れる。

 

①粉瘤 は、皮膚発生のため、皮膚との可動性が×で深部との可動性は○となる。

②腱鞘ガングリオン は、腱鞘発生のためにその逆になり、皮膚との可動性が○で深部との可動性は×である。

③腱鞘巨細胞腫 は腫瘍が小さいうちはガングリオンと同様の所見だが、腫瘍が大きくなると上部の皮膚が緊満して、皮膚との可動性×、深部との可動性×となる。

 

粉瘤は皮膚から発生するため、皮膚との可動が不良で、深部とは良好である。慣れてくると触診である程度の診断がつくようになる。

  • 画像検査は、エコーMRIが有用である。嚢腫の場合は①粉瘤 or ②腱鞘ガングリオン、充実性腫瘍の場合は③腱鞘巨細胞腫を疑う。
  • MRIによる①と②の鑑別を下記にまとめた。

MRI:①粉瘤のほうが、②腱鞘ガングリオンよりも嚢腫壁が厚い。

MRI:①粉瘤のほうが、②腱鞘ガングリオンよりもT1 強調像で高信号を呈する(粥状内容物を反映するため)。

 

 

 

 

外傷性表皮嚢腫のMRI: 粉瘤ではガングリオンと比較して嚢腫の被膜が厚い。またT1強調像で筋よりやや高信号になる(ガングリオンでは低信号)。

 

 

 

Step by Step

 

■ Step 1 

  • 皮膚切開線を作図する。
  • 腫瘤上の皮膚をつまんで、皮膚との可動が不良な部分に粉瘤の皮膚開口部があることが多い。
  • 皮膚開口部と思われる部分を含んだ紡錘形を作図する。

この際、最終的な皮膚縫合線が、Bruner's incision(zig-zag)に一致するようにするとよい。

他部位の粉瘤と比較すると、手掌・指腹部の粉瘤の皮膚開口部はわかりづらいことが多いよ。
指導医

腫瘤状の皮膚を摘まむと、皮膚との可動が不良な部分がある。その部分に粉瘤の皮膚開口部がある。

最終的な縫合線がBruner's incisionに一致するようにすると、術後の瘢痕拘縮を予防することができる。

 

 

■ Step 2 

  • 手術は局所麻酔(or 伝達麻酔)下でおこなう。
  • 上肢タニケットを使用して、無血野で手術するのをオススメする。

手術用ルーペを使用しての手術が望ましい。皮膚腫瘍ではあるが、嚢腫の深部には指神経血管束が走行していることが多く慎重な剥離を要するからである。

局所麻酔下で手術する場合でも、上肢タニケットを併用したほうがよい。その場合、タニケットペインの関係で、20〜30分以内に駆血を解除する。

レジデント
1%キシロカインによる局所麻酔下の手術はダメですか?
もちろんそれでも手術は可能だよ。ただ、無血野のほうが、神経血管束損傷のリスクを減らせる。あと、atraumaticな操作で術後の手指拘縮を最小減にしたい。そのために"無血野"は大事だよ。1%EキシロカインによるTLA 麻酔(tumescent local anesthesia)であればタニケットは使用しなくてもいいかもね。
指導医

 

 

■ Step 3

  • 利き手で15番メスを持ち、反対の手指で皮膚にカウンターをかけながら皮膚切開する。

この際、紡錘形の中央部は特に皮膚が薄いため、いきなり深く切り込まないようにする(嚢腫壁を切開してしまうため)。

 

 

■ Step 4

  • 剥離するレイヤー(層)を確認する。
  • 剥離剪刀を使いながら嚢腫壁を露出させる(メスですべて剥離してもよい)。
  • 嚢腫の深部に神経血管束が走行していることが多いが、嚢腫壁の直上で剥離できれば、絶対に損傷することはない。

初心者は嚢腫壁を破りたくないため、嚢腫壁の外側に一層膜を残した層(レイヤー)で剥離することが多い。そうすると出血しやすく、剥離に時間がかかる。


  

 

■ Step 5 

  • 病理検査に提出する。

     

 

■ Step  6 

  • 5-0ナイロンで縫合する。創縁が内反しないように垂直マットレスを適宜いれるとよい。
  • 本症例では、嚢腫が大きく、摘出後に死腔があることからペンローズドレーンを留置する方針とした。
  • ペンローズドレーンは片側からだけだせばよいが、両側からドレナージをきかせるのは著者の好みである。

縫合糸でペンローズドレーンをひっかけないように注意する。

水に浸した脱脂綿、厚めのガーゼ、布テープで念入りな圧迫固定をすることでペンローズドレーンを留置しないで術後管理するドクターもいる。

 

手掌の皮膚は内反しやすいので、垂直マットレスを時々いれることで創縁を外反させながら縫合するといいよ。あと、手掌部は真皮縫合をしないから、ナイロン糸での表縫いだけになる。術後にリハビリをした際に、創離開しないような縫合(バイトをやや大きめ、ピッチはやや狭め)をするのがコツだよ。
指導医

 

 

■ Step 7 

  • タニケットを解除する。
  • 3〜5分圧迫して止血する。
  • 綿球や脱脂綿などで死腔を圧迫しながらドレッシングする。

粉瘤は適切に摘出できていれば、理論的には、皮膚切開部の創縁以外からは出血しないはずだよ。
指導医

 

 

 

■ 術後

  • 当日は、安静、患部冷却、患手挙上を徹底する。
  • 術翌日〜自宅処置(シャワー洗浄、軟膏、ガーゼを1日1回)を開始する。
  • 術翌日〜患指の自動運動を開始する。2〜3時間に1回が目安である。
  • 術翌日〜日中は軽作業から可とし、夜間はアルフェンスシーネで患指を伸展位固定する。
  • 術後2週間で抜糸する。

 

■ 処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後  3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ゲンタシン軟膏 10g 1本

 

■ コスト

   

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