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【Step by Step 手術手技】ばね指にたいする腱鞘切開術

Key Point Summary

ばね指:屈筋腱の滑膜性腱鞘が何らかの原因で炎症(腱鞘滑膜炎)をおこし、ふくらみ(pseudonodule)を形成するのが原因である。

指伸展時に、このふくらみ(pseudonodule)がA1 pulley内にスムースに入れないのがひっかかりの原因である。

 手術の本質は、靱帯性腱鞘(通常はA1 pulley)を切開し、ふくらみ(pseudonodule)と腱鞘のひっかかりを解消することである。

 A1 pulley切開後にひっかかりが残存する症例では、A2 pulleyの近位 and/or A0 pulleyを切開することもある。

 

 

 

Q & A

レジデント
ばね指ってなんでおこるんですか?

屈筋腱(緑)は腱鞘に覆われているね。刀と鞘の関係に似ているね。腱鞘は屈筋腱の摩擦を減じて滑走を助けるだけでなく、屈筋腱に栄養も供給しているよ。腱鞘は細かく見ると下図のように、滑膜性腱鞘(青)とそれを覆う靱帯性腱鞘(赤紫)から成るよ。ばね指は、なんらかの原因でこの滑膜性腱鞘(滑膜)に炎症が起きて、腫れるのが原因と考えられているよ。慢性化すると靱帯性腱鞘も厚く肥厚するようになるよ。
指導医
 

レジデント
ばね指でひっかかりが生じるのはなんでですか?

滑膜性腱鞘が炎症をおこして、膨化または増殖することで、ふくらみ(pseudonodule)を形成するのが原因といわれているよ。指を伸展したときに、このふくらみがA1 pulley内にスムースに入れないのがひっかかりの原因だね。なので、ばね指の典型例では、PIP関節を伸展した時にばね現象が生じるよ。
指導医
 

膨化または増殖した滑膜性腱鞘が指伸展でA1 pulley内にスムースに入らない。

 

レジデント
あと、滑膜性腱鞘に炎症が起きる"何らかの原因"ってなんですか?

昔から"手を使い過ぎるとばね指になる"と言われているね。全身疾患で有名なのは、糖尿病、関節リウマチ、透析患者さんだね。全身疾患に起因するので、複数指に同時多発的にばね指が出現し難治性のことが多いよ。更に女性ホルモンと滑膜炎(腱鞘炎)の関連が指摘されているよ。女性ホルモンの分泌が低下する(閉経、周産期など)と、滑膜炎(腱鞘炎)が悪化することがわかっているよ。
指導医

 

 

Outline

【解剖】

図には示されていないがA1 pulleyのやや近位にpalmar aponeurosisと呼ばれる線維性のトンネルが存在する。A0 pulleyと呼ばれることもある。

 

Step by Step

腱鞘切開術を解説するよ。
指導医
   

 

■ Step 1

  • 手術は伝達麻酔または局所麻酔下でおこなう。
  • 上肢ターニケットを使用して、無血野で手術する。

肉眼での手術はオススメしない。ルーペ or 顕微鏡を使用しての手術が望ましい。

局所麻酔下で手術する場合でも、上肢タニケットを併用したほうがよい。その場合、タニケットペインを予防するために、20〜30分以内に駆血を解除する。

本症例では、局所麻酔+上肢ターニケットで手術をおこなったよ。
指導医
   

 

■ Step 2

  • 皮膚切開線を作図する。
  • A1 pulleyの直上に斜めの皮膚切開線を作図することが多い。斜め切開は、さらに皮膚切開を追加しないといけない場合にzig-zag切開に移行しやすい。

A1 pulleyの位置を正確に同定することが重要である。患者の患指のA1 pulley直上を術者が指でおさえ、患者に患指を屈伸してもらうと、肥厚した腱鞘と引っかかり感(ゴリゴリする感じ)を触れる。

手掌皮線をランドマークとした場合、母指では手掌母指皮線の2〜3mm中枢、示〜小指では近位手掌皮線の橈側端と遠位手掌皮線の尺側端を結んだ線の5〜7mm末梢がA1 pulleyの中心となる。

 中指と環指のA1 pulleyは指の正中に位置する。しかし、母指、示指、小指ではやや正中寄りにズレているので、注意を要する。

きずあとを目立たなくするために手掌皮線に沿った皮膚切開線を作図することもあるよ。ただし、前述のように、皮膚切開部とA1 pulleyの位置がややずれるので、神経鉤などで皮膚を水平方向に可動させてA1 pulleyを露出させる必要があるよ。
指導医


右中指ばね指にたいする腱鞘切開術。典型的なA1 pulley直上の斜め切開。

 

(別症例)右示指・中指のばね指にたいする腱鞘切開術。手掌皮線に沿った皮膚切開線を作図した。(※中枢側の縦切開線は手根管開放術の皮膚切開線である)

 

 

■ Step 3

  • 1%Eキシロカイン10ccで局所麻酔をする。
  • 上腕をターニケットで駆血する。圧は250mmHgである。

局所麻酔でターニケットを併用する場合、30分以上でターニケットペインが必発なので、30分以内でターニケットを解除できるような手術プランが必要だね。
指導医

  

 

■ Step 4

  • 15番メスで皮膚切開をする。

皮膚切開の際に、いきなり深く切り込まないようにする。深部の神経損傷のリスクがあるためである。

 

 

■ Step 5

  • モスキート(曲)を刺入して、先端をゆっくりと広げることで皮下脂肪を左右にかきわけて、深部のA1 pulleyを確認する。
  • さらに神経鉤をもちいて、A1 pulleyの全体像が露出するように展開する。

A1の近位端は同定しやすいけど、A1の遠位端とA2の近位端の境目はわかりづらいことが多いよ(=同定はほとんど困難!?)。A1→A2に向かってメスで腱鞘を切開する際に、腱鞘の硬さが変わる部分があって、そこがA1とA2の境界と判断するといいよ。
指導医

モスキートで皮下脂肪を剥離する。

神経鉤と用いてA1 pulleyを露出する。A1 pulleyに神経鉤の先端を押しあてて腱鞘上に沿って擦るような感じで剥離する。

(別症例)左右の神経鉤を牽引することでA1 pulleyをきれいに露出できる。さらに二爪鉤で中枢側、末梢側を展開するとよい。

 

 

■ Step 6

  • 神経鉤で十分に視野を確保しつつ、同時に、橈尺側の神経血管束を保護した状態で、A1 pulleyの正中を15番メスで切開する。
  • この際、下の写真のように刃先を末梢側に向けて、A1 pulleyの中枢端から遠位に向かって切開していくとよい。
  • 腱鞘が切れると深部に屈筋腱(FDS)が見える。滑液や滑膜が溢れでてくることもある。

 

A1 pulleyの正中を15番メスで切開する.

A1 pulleyを15番メスで切開する。

(別症例)A1 pulleyを15番メスで切開する。

(別症例)A1 pulleyに切開を加えると、るぐ直下にFDSを確認できる。

 

 

■ Step 7

  • A1 pulleyを切開したら、屈筋腱を観察する。屈筋腱に腱鞘で圧迫されたわずかな陥凹とその近位部にわずかな膨らみがある場合がある。患者に患指を自動伸展してもらい、ここが圧迫されない範囲まで遠位方向に腱鞘切開を追加する=すなわち、必要に応じて、A2 pulleyの近位を部分切開することになる。
  • A0 pulley(palmar aponeurosis; PA)でひっかかりがおこることは稀であるが、もし引っかかるようであれば、A0 pulleyも切開する。

A0 pulleyというのは俗語で、正式名称はpalmar aponeurosis(PA)だよ。A1のすぐ近位にある線維性のトンネルのことだよ。
指導医

A1 pulleyを切開した段階で、患者に患指を自動伸展してもらうんだけど、これは局麻下の手術でないとできないよ。伝達麻酔下の手術では他動的に指を伸展させて確認するしかないね。
指導医

A1とA2を両方とも完全切開すると、腱の浮き上がり現象が生じてしまうので、A2は近位1/2までの切開にとどめよう。通常は、それでひっかかりはなくなるよ。
指導医

(別症例)切開したA1 pulleyの遠位にあるA2 pulleyにもひっかかりを認めたため、A2の中枢側も部分切開した。

(別症例)切開したA1 pulleyの近位にあるA0 pulley(PA)でもひっかかりを認めた。鑷子で把持しているのがA0 pulley。

(別症例)A0も切開した。

 

 

■ Step 8

  • 再癒合を防ぐために切開した腱鞘を切除する。

(別症例)把持しているのは、切開し観音開き状になったA1 pulley。

(別症例)再癒合を予防するために切開した腱鞘の両断端は切除しておくとよい。

 

ちなみに屈筋腱周囲の"滑膜切除"は、特発性の症例では不要とされているよ。
指導医

 

 

■ Step 9

  • 最後にもう一度、患者に指の自動屈曲・伸展をしてもらい、ばね現象やクリックの消失を確認する。
  • 生理食塩水で洗浄する。

患者に指の屈伸をしてもらい、ひっかかりがないことを確認する。

(別症例)腱鞘切開後。

生食で洗浄する。

 

 

■ Step 10

  • 皮膚縫合 5−0ナイロン
  • ガーゼドレッシングをする。

5−0ナイロンで縫合直後。創縁が内反しないように垂直マットレスを併用する。

(別症例)皮膚縫合直後。

あてガーゼ、さばきガーゼ、白綿、弾性包帯でドレッシングした直後。

 

 

■ 術後

  • 当日は、安静、患部冷却、患手挙上を徹底する。
  • 術翌日〜自宅処置(シャワー洗浄、軟膏、ガーゼを1日1回)を開始する。
  • 術翌日〜患指の自動運動を開始する。2〜3時間毎に1回が目安である。
  • 術翌日〜日中は軽作業から可とする。PIP関節に屈曲拘縮を認める症例では、日中の積極的なPIP伸展訓練(自動・他動)を推奨し、夜間はアルフェンスシーネを患指背側からあてがい、伸展位固定する。
  • 術後2週間程度で抜糸する。

術後は、患指の積極的な自動運動指導を患者に指導するのが大切だよ。腱鞘をいじったのに動かさないと、癒着や関節拘縮が必発してしまうよ。
指導医

術後に右中指PIP関節の軽度屈曲拘縮を認める。ばね指では腱鞘切開術後にPIP関節痛と屈曲拘縮を生じることがある。術前に説明しておいたほうがよい。

夜間にアルフェンスシーネでPIP関節を伸展位に保つようにする。

指背側からアルフェンスシーネをあてがったほうが効果的に伸展できる。

 

 

■ 処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後  3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分

 

  • ゲンタシン軟膏 10g 1本

 

 

■ コスト

 

 

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