その他 形成外科 
【診療Tips】糖尿病で切断した足や手術で摘出した皮膚腫瘍を持ち帰りたいと言われたら? Key Point Summary 患者さんが、切断した組織(四肢や指趾)の持ち帰りを希望した場合の対応に関して解説する。 
患者さんが、手術で摘出した組織の持ち帰りを希望した場合の対応に関して解説する。 
判断に迷う場合は、病院内の倫理委員会に判断を仰ぎ、病院としての見解・決定を患者さんやその家族に提示する。 
 
Q & A 
レジデント
先日、糖尿病壊疽で足を切断した患者さんの御家族に「切断した足を持ち帰りたい」と言われたのですが…
まれにあるね。一般的には病院で医療廃棄物 として処理することが多いんだけど、患者さんやその家族の希望があれば、火葬場 で焼いてもらって小さな骨壺に入れておいて、患者さんが故人になられたときに、お寺で一緒に供養してもらうケースもあるよ。「分骨すると、死語の世界で五体満足になれない。」という宗教上の考え方が影響しているよ。
指導医
切断した足の対処に関して、医師や看護師に正しい知識がなかったり、同意書を準備していない病院もあって、患者ー病院間のトラブルになったケースが報告されているよ。
指導医
レジデント
調べてみようとしたのですが、論文と違って、何を調べたらいいのかわからなくて…
そうだね、法律が絡む部分で、わかりやすくまとまっている資料がないのげ現状だね。
指導医
 
 
 
Outline 本稿作成にあたっては、下記の症例報告を参考文献としたよ。「手術で摘出した娘の皮膚腫瘤を自宅に持って帰りたい。」という両親からの要望があり、病院側の対応をまとめた論文になるよ。とても深く考察されているよ。
指導医
久保裕之, 石川順英. こんなときどうしますか?正しい対応は?「手術で摘出した娘の皮 腫瘤を 宅に持って帰りたいのですが」.  高松赤十字病院紀 2017;5:33-35. 
 
患者さんやその家族の要望は多岐にわたるため、判断に迷うケースでは、担当医個人で安易に結論をださず 、病院の倫理委員会等で法律の専門家も含めて「病院としての見解・決定」を提示するのが大切だよ。
指導医
 
 
【四肢切断の場合】 
四肢や指趾の切断を要する場合:糖尿病性壊疽、重症下肢虚血、手指の挫滅損傷、多指症手術など。 通常は、(a) 病院で医療廃棄物として処理 (焼灼)される。患者(やその家族)の希望がある場合は、(b) 持ち帰って火葬場で焼いてもらう こともできる。 切断した組織の処理をどうするかは、術前に医師が患者に説明をし、荼毘(だび=火葬のこと)同意書 を取得する場合が多い。手術室に入室する際に、この同意書を必須としている病院も多い。この部分に不備があると後から患者ー病院間でトラブルになるケース がある。 切断した組織は、供養する必要はない(患者さんは亡くなっていないため)。切断した組織を火葬して遺骨として小さな骨壺で管理(自宅の仏壇 or お寺)し、故人となられたときに、ご遺体と一緒にお寺で供養してもらう。 多指症手術の場合の余剰指(6本目の指)の処理は判断に迷うよね。病院や担当医によって対応が違うのが現状と思われるよ。
指導医
 
 
【切断した組織を火葬する場合】 
病院で診断書(切断証明書 )を受け取る。 役所で火葬許可証 を発行してもらう。 近隣の火葬場 (or 斎場 or 葬儀社) に連絡する。 火葬した骨は小さな骨壺に入れて自宅の仏壇などで管理する。 火葬した骨の供養は不要。 切断した組織の火葬は、数千〜数万円の範囲内でやってもらえるみたいだよ。自治体によって、値段や方法が異なるため、問い合わせて確認するのがいいね。
指導医
葬儀社と斎場と火葬場の関係 
 
 
【手術で摘出した皮膚腫瘍の場合】 
民法上、「生体由来の組織は第一次的には被摘出者の所有に属す」が、手術によって摘出した組織の所属に関しては法的基盤に乏しい。 病院内の倫理委員会 をとおして、手術で摘出した組織をホルマリンのビンにいれて患児の両親に渡したケース(09_pp33-35_高松赤十字病院紀要(05) )がある。ホルマリンは、毒物および劇物取締法により劇物に指定されているが、個人が持つこと自体は禁止されていない。 廃棄物処理法による適正処理の義務を渡された側(保護者)が追うことを条件に、摘出した組織を患者家族に渡しても構わない、と判断された。 一連の経過を電子カルテに記載をした。 指導医
へその緒、乳歯、胆石などは、患者やその家族の希望があれば、慣習的に渡しているよね。法律の隙間で、明確なルールがないのが現状だよ。
 
 
 
  小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 
日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。
手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。
美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。
 
 その他 , 形成外科 ホルマリン , 切断 , 手術 , 持ち帰る , 摘出 , 火葬 , 足 
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