Key Point Summary
頭部(有毛部)挫創の処置におけるステイプラー(医療用ホッチキス)の利点を理解する。 ステイプラーのほうが、皮膚の血流障害のリスク↓。 ステイプラーでは、処置が数秒でおわる。 ステイプラーでは局所麻酔や剃毛が不要なことが多い。
Q & A
(1) ステイプラーのほうが、皮膚の血流障害のリスク↓
- 下手に糸で強く結紮すると皮膚(創縁)の血流が悪くなり、脱毛のリスクが生じる。
- ステイプラーは誰が使用しても創縁の血流障害が生じづらい。
皮膚断面からみた医療用ホッチキス(左)と縫合糸(右)の違い
(2) ステイプラーでは処置が数秒でおわる。
- ERなど応急処置の現場で適している。
- 安静を保つことが難しい小児では特に有用である。
(3) ステイプラーでは局所麻酔や剃毛が不要なことが多い。
- 頭の挫創が異物(砂利など)で汚染されていれば、局所麻酔をして異物を除去する必要がある。一方で、汚くなければ生理食塩水で洗浄して、無麻酔で医療用ホッチキスで皮膚縫合が可能である。局所麻酔も注射なので痛みがある。それであれば数秒の我慢ですむステイプラーは無麻酔で、という考え。
- 有毛部のキズを糸で縫合するのは、髪毛と縫合糸がからまって大変である。そのため、剃毛(キズの周り毛を剃ること)を要することが多い。ステイプラーは剃毛しないでも処置が可能である。
Outline
【頭部挫創】
- 頭皮は硬い頭蓋骨を覆っているため比較的軽度の外力でも開放創になりやすい。また帽状腱膜下層が疎であるためこの層で剥離されやすい。
頭部挫創では、頭蓋内損傷や頸椎損傷を合併していることがあるため、創傷だけに目がいかないように注意する。意識障害、記憶障害、頭痛、嘔吐、手足のしびれや麻痺等がないかを必ず確認する。
■ Step 1
- 症例写真のように創が小さい場合は、局所麻酔を要さない。
- 生理食塩水100ml(洗浄ノズル or 18G針付き)で洗浄する。
創が大きい場合(目安は ≧ 5cm)と汚染が強い場合は局所麻酔をしたほうがよい。
■ Step 2
- 創縁が内反しないように注意しながら医療用ステイプラー(ホッチキス)で縫合する。
挫滅が強いとが創縁が内反していることがあり、このままステイプラー固定すると創治癒不良、抜鉤後の創離開の原因となる。助手に有鉤摂子などで創縁を外反してもらい頭皮に垂直にステイプラーを押しつけてから打ち込む。
剃毛は必須ではない。剃毛せずに処置したほうが、患者の整容満足度は高い。処置時に髪の毛が邪魔にならないように輪ゴムで創周囲の髪をまとめることもある。
糸縫合する場合、青ナイロン糸を使用して、糸を長めに残しておくと抜糸の際に楽であり、抜糸忘れも防げる。
子供の怪我を綺麗に縫合してもらおうとして病院受診した母親の前で、何も言わずにステイプラー処置をすると驚かれることがある。頭皮挫創におけるステイプラーの利点を説明してから処置をするのが望ましい。
■ Step 3
- 術直後:処置直後はガーゼで5〜10分患部を軽く圧迫し、その上から保冷材で冷却する。出血がなければガーゼを含め創部のドレッシングは不要である。もちろんテープ固定やネットも不要である。
- 自宅処置:術翌日からシャワー洗浄処置を開始する。泡立てた石鹸を介してステイプラー周囲の血糊を少しずつ溶かすように洗浄する。ゲンタシン軟膏を患部に外用しても良いが必須ではない。
抗血小板薬・抗凝固薬を内服している場合は、例外的に、ガーゼ+バートン包帯で圧迫止血をすることがある。その場合、翌日 (or 翌々日)に外来受診を指示する。
洗髪処置の根拠:縫合後24〜48時間以内に上皮の再生がおこり、創は完全にシールされため、外部からの細菌感染の危険はなくなる。むしろ血餅(血流のない組織)が創縁に残存するほうが菌が増殖して感染するリスクが高まる。
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- 患者が希望すれば、ゲンタシン軟膏 10g 1本
■ コスト
- 創傷処置(J000)
医療経済的な観点からは、頭部挫創の処置でステイプラーを使用すると赤字である。ステイプラーは1個あたり3000円前後し、再滅菌による使用は不可である。局所麻酔をして糸縫合する場合は創傷処理(K000)で算定できる。
★顔にステイプラーは禁忌!
- 形成外科外来をしていると、夜間のERで顔にステイプラーを打ち込まれて受診する患者に遭遇することがある。夜間の眠いなか急患対応する当直医の苦労はよくわかるが、顔にステイプラーは禁忌である。創縁がズレていることが多く、創治癒に時間を要し、将来的なきずあとも目立つことが多い。