形成外科 手外科

【診療Tips】指へのE入りキシロカイン使用は安全?最新エビデンスと添付文書改訂

はじめに

  • かつて「エピネフリンを含む局所麻酔薬は末梢部位(指、耳、鼻、陰茎)に使用してはならない」という教科書的常識が広く浸透していました。
  • これは、血管攣縮による壊死を恐れるためでしたが、実は古い症例報告に基づくもので、近年その妥当性が見直されています。
キシロカイン注射液「1%」エピレナミン(1:100,000)含有

キシロカイン注射液「1%」エピレナミン(1:100,000)含有

 

Lalondeらによる3110例の前向き研究

  • Lalondeら(2005年, J Hand Surg Am)は、3110例の手指手術に対して低濃度エピネフリン(≦1:100,000)入り局所麻酔薬を使用した前向き多施設研究を行いました。
  • 結果:
    ・壊死例は0件
    ・血流回復のために拮抗薬:フェントラミン*を使用した症例も0件
  • この結果は、従来の「禁忌」を覆す強力なエビデンスとなり、世界中で広く引用されています。
*フェントラミンはα(アルファ)アドレナリン受容体遮断薬の一つで、主に血管拡張作用を持つ薬剤だよ。
指導医

 

禁忌と注意点:2023年9月改訂の添付文書

  • 2020年12月、厚生労働省はE添加リドカインの添付文書を改訂し、以下の変更が行われました。
    • 耳・指趾への投与は禁忌から除外

    • 陰茎は依然として禁忌

  • ただし以下の場合は慎重投与が求められます。
    • 血行障害を有する患者(閉塞性動脈硬化症、Buerger病など)
    • 複数指趾への同時投与
    • 小児への投与
  • この情報は2023年9月の改訂版添付文書に基づきます。
2023年9月改訂の添付文書

2023年9月改訂の添付文書

 

禁忌除外そのものが行われたのは2020年12月。その後、2023年9月に最新の添付文書として改訂版が公表されたよ。
指導医

 

実際の臨床応用:Wide Awake Local Anesthesia No Tourniquet(WALANT)

  • E入りキシロカインを用いることで、手術を鎮静なし・駆血帯なしで行えるWide Awake Local Anesthesia No Tourniquet (WALANT) 手技が可能になります。
    例えば以下の利点があります。
    • 出血が少なく視野が良好

    • 高齢者や全身麻酔リスクが高い患者にも安全

    • 手術中に患者が自ら動かし、腱修復の張力を確認できる

  • Lalondeらの研究では、指への投与後も壊死は認めず、血流は自然に回復しており、フェントラミンを使わずとも安全でした

 

注意すべきポイント

  • 投与濃度は1:100,000以下

  • 投与部位は十分に血流が保たれていることを確認

  • 万一の血流障害に備え、フェントラミンを準備

  • 陰茎麻酔は禁忌(壊死リスク)

 

まとめ

  • Lalondeら(2005)の3110例研究で、指に低濃度エピネフリン入り局所麻酔薬を使用しても壊死は0例

  • 厚労省改訂で、耳・指趾への投与は禁忌から除外

  • ただし陰茎は禁忌のまま

  • 血行障害患者や小児では慎重投与が必要

エピネフリンを含む局所麻酔薬は、適切な症例選択と濃度管理のもとでは安全に使用できる。 これによりWALANT手技が普及し、手外科領域の麻酔管理が大きく進化しています。
指導医

 

参考文献

  • Lalonde D, et al. A multicenter prospective study of 3,110 consecutive cases of elective epinephrine use in the fingers and hand: the Dalhousie Project clinical phase. J Hand Surg Am. 2005;30:1061-1067. doi:10.1016/j.jhsa.2005.05.006
  • 添付文書情報(2023年9月改訂版)

 

WALANT手技や手外科手術の理解を深めるためには、最新の教科書や実践ツールが欠かせないよ。 手術準備の効率化や麻酔手技の習得に役立つ商品をまとめまたよ。
指導医

 

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

小野真平(形成外科医)/ Shimpei Ono(Plastic Surgeon) 

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

-形成外科, 手外科
-, , , , , , , ,

© 2025 マイナー外科・救急 Powered by AFFINGER5