Key Point Summary
爪甲脱臼は、爪を戻す。爪がなければフィルムで代用する。 爪上皮と爪母の間に、脱臼した爪やフィルムを挟み込むことで、癒着を予防することができる。 Schiller法をマスターする。
Q & A
Outline
【解剖】
【原因】
- 爪脱臼を伴う指挫滅創は、機会や石に挟まれた指を引っこ抜いた際に受傷しやすい。
- 爪の中枢側だけが引っこ抜ける爪根脱臼(掌側の皮膚はつながっている)が多いが、本ページで紹介する症例のように爪甲が完全に剥がれた状態(=爪甲脱臼)で受診することもある
【診断】
- 末節骨が折れていなければ挫滅創(挫創)、折れていれば末節骨開放骨折の診断となる。
ちなみに開放骨折 vs 不全切断の違いは、指動脈を介した指尖部への血行の有 vs 無 である。
■ Step 1
- 末節骨骨折を合併することが多いため、まずXp撮影をする。
■ Step 2
- 1%キシロカイン10ccで指ブロック注射をする(患部:指先への局所麻酔注射は激痛のため、指の付け根にブロック注射をする)。
- 麻酔がきくまで3分待つ。
■ Step 3
- 生理食塩水で十分に洗浄する。
出血が持続して創部の確認が行いにくい時は、指タニケットを使用してもよい。
■ Step 4
- 皮膚を5−0ナイロンで縫合する(側爪郭縁など、解剖学的にわかりやすいところからkey sutureをいれていくとよい)。
- 爪床の断裂部は抜糸が不要の細い吸収糸(6−0PDS or 6−0バイクリル)で縫合するとよい。皮膚を縫合した時点である程度、爪床の断裂部同士が整復されていれば無理に縫合せずともよい(爪床欠損を合併する症例は別稿で解説する)。
糸をきつく結びすぎると組織の血流を阻害し欠損範囲が拡大してしまうため、緩め且つ粗めの縫合が望ましい。
■ Step 5: 爪がない場合→フィルムを代用
- 本症例では爪甲がないため、フィルムシート(ペンローズドレーンを加工しても可)をもともとの爪甲の形に切り、そのフィルムをSchiller法(シラー法)の要領で5−0ナイロンで下図のように固定する。
フィルムを挟み込むことで爪上皮と爪母の癒着(癒着すると翼状片を形成して爪がうまく生えなくなる)を予防することができる。
■ Step 5: 爪がある場合→Schiller法
■ Step 6
- ゲンタシン軟膏を塗布する。
- アダプティックやエスアイメッシュなどの非固着性シリコンガーゼを創面に巻いた後、ガーゼをあてて包帯で軽く圧迫する。
- 当日は自宅内で安静にし、患手は心臓より高い位置に挙上し、包帯の上から保冷剤で1〜2時間冷却する。
- 入浴、お酒、激しい運動は×。
- 受傷後2〜3日以内に、外来受診を指示する。
完全に爪が生えるのに約6ヶ月かかること、爪変形のリスクがあることを説明しておく。
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ゲンタシン軟膏 10g 1本
■ コスト
- 創傷処理(K000)
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