Key Point Summary
指尖指腹部の欠損で、軟部がある程度残っている場合は、手掌部からの厚め分層植皮はよい適応である。 手掌部の欠損を手掌部の皮膚で再建する治療戦略は、整容的な観点のみならず知覚回復の観点からも優れている。 採皮刀で厚め分層採皮をするのに技術と経験を要する。 植皮のドナー(採皮部)は止血材で止血し、あとは湿潤療法で上皮化させる。
Q & A
Outline
【概要】
- 指を挟んで引き抜いた際に受傷しやすい。
- (1)末節骨が骨折する場合と、(2)末節骨はインタクトで、皮膚のみが剥脱する場合、の2パターンがある。
- 皮膚軟部組織欠損のボリュームが大きい場合、つまり、指尖指腹部が斜めに欠損して末節骨が露出する and/or 末節骨骨折を伴う場合、は皮弁による再建が望ましい。
- 皮膚軟部組織欠損のボリュームが小さい場合、つまり、末節骨露出がなく、皮下脂肪がある程度温存されている場合は、植皮の良い適応である。
- 指尖指腹部の欠損に対する植皮のドナーとしては、手掌や足底からの厚め分層、内果下部から全層が望ましい。色・質感・感覚回復の観点から優れている。
■ Step 1
- 本症例では、全身麻酔、上肢タニケット駆血下にて手術をおこなった。
- レシピエントは鋭匙で軽く表面を擦るにとどめ、洗浄しておく。
腕神経叢ブロックを併用すると、術中のタニケットペインが生じず浅麻酔で管理が可能であり、術後の痛みも最小限で済む。
レシピエントは乾燥しないように生食ガーゼなどで被覆しながらSTEP2以下の手術をすすめる。
■ Step 2
- 採皮刀(カミソリ)をわずかに弯曲させる。
- ノコギリの要領で、刃を前後に動かしながら採皮する。
皮膚の接線方向にテンション(緊張、張力)をかけながら採皮するとよい。
浅すぎると角質しかとれず、深すぎると脂肪が露出し、ドナーの創治癒遅延や異常瘢痕が生じる。適切な厚さで採皮するためにはある程度の経験を要する。
■ Step 3
- 厚め分層採皮をした植皮片のうち、辺縁は角質なので、剪刀で切除する。
- 使用するのは中心部の白い部分(真皮成分)のみである。
切除する角質部分を考慮して、採皮はやや大きめにおこなっておく。
■ Step 4
- バイポーラで採皮部の止血をする。
脂肪がうっすらと透見できる程度が、適切な厚さで採皮できた証拠である。
■ Step 5
- 植皮片をレシピエントに移植し、6-0ナイロンで縫着する。
植皮片が欠損周囲の健常皮膚とオーバーラップしないようにする。やや隙間があいているぐらいでちょうどよい。
植皮片下に血腫が介在しないようにanchoring sutureを追加するとよい。
■ Step 6
- 植皮片上はアダプティック(or エスアイ・メッシュ)とゲンタシン軟膏で保湿し、ガーゼと包帯をを巻き付け布テープで固定する。
- 母指球・小指球部のドナーは、植皮片が余ればバイオロジカルドレッシング目的で戻して縫着し、上からソーブサン(またはカルトスタット)を貼付する。
- 指間部にさばきガーゼをいれながら、bulky dressing、手背側から手関節をまたいでシーネで外固定する(手術当日は患側上肢が腕神経叢ブロックで麻痺した状態になっているため)。
ドナー(手掌部)のガーゼとレシピエント(指先)のガーゼを別々にし、術後2〜3日後にドナーだけ部分的に開窓して創チェックできるようにドレッシングすると術後管理が楽である。
■ 術後ケア
- 患手はシーネの上からストッキネットをかぶせて点滴棒などで挙上する。その際に、肘周りを枕などで固めておくと安定する。
- 手術当日は、肘周りをを保冷材で2〜3時間程度冷却する。
- ドナーは血腫などで汚染・感染することがあるため、術後2〜3日目に部分的に開窓して、確認する。血腫があれば除去し、イソジンで消毒する。
創面に固着しているソーブサン(or カルトスタット)は無理に剥がさない。イソジンで消毒し、GM軟膏を上から塗布する。
- 術後7日目にドナーとレシピエントのすべてのガーゼを除去する。
- 抜糸は7〜14日を目途におこなう。開放創は、洗浄、フィブラストスプレー、GM軟膏で管理する。創傷被覆材を併用してもよい。
■ 処方箋
- セファゾリンNa点滴静注用1gバック 1日3回静注 3日間
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- フィブラストスプレー
- ゲンタシン軟膏10g 1本 1日1回処置時に外用
■ コスト
- 全層植皮術(K013-2)
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