Key Point Summary
屈筋腱の腱鞘内に侵入した病原体が急速に広がることにより発症する。 緊急手術を要する手外科領域の感染症。 診断には、Kanavelの4 徴が有用。 軽症例では小切開から腱鞘内にカテーテルを刺入し洗浄する。重症例ではzig-zag切開で展開しデブリードマンする。
Q & A
Outline
■ 定義と概念
- 動物の牙等が屈筋腱の腱鞘内に達し、閉鎖空間内に侵入した病原体が急速に広がった状態。
- 化膿性腱鞘炎は緊急手術を要する疾患の1つである。
■ 解剖
- 指の屈筋腱(flexor tendon)は、滑膜性腱鞘(synovial sheath)で覆われている。さらにその外側に靭帯性腱鞘(pulley)があり、屈筋腱の浮き上がりを抑えている。
- 屈筋腱が滑膜性腱鞘に覆われていることで、靱帯性腱鞘のトンネルの中を摩擦なく通ることができる。
■ 臨床所見
- Kanavelの4 徴
① 指の完全伸展不能=軽度屈曲位 ② 腱鞘に沿ったびまん性の腫脹 ③ 腱鞘に沿った圧痛 ④ 指の他動伸展で痛みを訴える
が診断に有用である。
■ 検査
- 血液の炎症反応は局所の炎症の割に上昇しないため、診断の根拠になりづらい。
- エコーやMRIは腱鞘内の液体貯留を確認する目的で有用であり、臨床所見に加えて腱鞘内の液体貯留を認めた場合は、化膿性腱鞘炎の可能性が高い。
- 臨床所見や画像から確定診断の判断に迷う場合は、20G針で腱鞘内の液を穿刺吸引し、性状を確認したうえで細菌培養検査に提出するのも有用である。
■ 病期判定
病期判定にはLoudon病期分類を用いる。
Stage 1:腱鞘内の浮腫 Stage 2:腱鞘の肥厚、膿貯留 Stage 3:腱鞘壊死 Stage 4:皮膚壊死、腱壊死
■ 保存的治療
① 発症から24時間以内の急性期。 ② Kanavelの4徴がすべて揃わず炎症が局所にとどまっている。 ③ 腱鞘内の穿刺吸引で膿がひけない。
の3条件が揃っている場合は、入院管理で保存的治療(スプリントによる安静、患肢挙上、静脈内抗生剤投与)を開始する。
そして、経時的な変化を注意深く観察する。
抗生剤投与開始から24時間以内に臨床症状が改善しない場合は、速やかに外科的治療に切り替える。
■ 外科的治療
- 患者が易感染性宿主の場合や炎症が指全体に拡大したり慢性化している場合は、最初から外科的治療を選択する。
- 軽症例では小切開により腱鞘内にカテーテルを刺入し腱鞘内を洗浄する方法を選択する。
- 重症例では末節部から手根部までzig-zag皮膚切開を用いて展開し、滑膜性腱鞘を徹底的に切除したうえで、A2 とA4 以外の靭帯性腱鞘も切除する。
腱鞘や腱および皮膚の壊死を認める症例(Loudon病期分類のStage3と4)では、指機能は著しく低下する。
ポイント 軽症例:小切開から腱鞘内にカテーテルを刺入し洗浄する。 重症例:Zig-zag切開で展開しデブリードマンする。
■ Step 1
- 重症例では手術室で全身麻酔 or 伝達麻酔(腋窩ブロック)下での手術が望ましい。
- 軽症例(健常者で受傷後早期)では外来処置室での手術が可能である。
- 以下、軽症例の対応を紹介する。
- 炎症の中枢側に1%Eキシロカイン10〜20ccで局所麻酔をする。0.75%アナペインを併用してもよい。
■ Step 2
- 咬まれた部位(小指基節骨尺側)を開放するように縦方向の切開線、さらにA1 pulley(靭帯性腱鞘)の直上に「く」の字の切開線を作図する。
- 手術は可能であれば、上肢タニケットを併用したほうが無血野で安全に手術が可能である。
エスマルヒは、末梢から巻き上げると感染が中枢に波及する可能性があるため使用しない。患肢を30秒〜1分ほど挙上してから駆血する。
■ Step 3
- A1 pulley直上の「く」の字を皮膚切開すると、手掌腱膜、さらに深部にA1 pulleyを確認できる。
二爪鉤 or 三爪鉤で術野を確保する。
指神経・動脈を損傷しないように注意を払う。
■ Step 4
- A1 pulleyを縦方向に15番メスと剪刀で切開する。
- 切開すると腱鞘内の濁った液があふれ出てくるのが確認できる。
- 培養検査に提出する。
■ Step 5
- 咬傷の中枢&末梢側に縦切開を追加して、創を開放すると、皮下に膿を確認した。
- さらに深部まで展開すると、腱鞘の尺側面に孔が開いており、動物の牙が腱鞘内に侵入したことが推測された。
■ Step 6
- サーフロー付きシリンジを用いて腱鞘内を生理食塩水で十分に洗浄する。
筋鉤で術野を確保しながら、サーフローの先端を腱鞘内に刺入する。中枢→末梢、末梢→中枢、いずれでもよい。
■ Step 7
- 本症例では、サーフローとペンローズドレーンをそれぞれ留置し、翌日以降も洗浄できるようにした。
- 入院または連日の通院処置を指示し、局所感染徴候(赤み、熱感、腫脹、疼痛)が改善し、洗浄時の排液がきれいになった段階で、サーフローとペンローズドレーンを抜去する。
それでも感染コントロールがつかない場合は、重症例の可能性が高く、手術室でのzig-zag切開、デブリードマンを検討する。
■ Step 8
- 処置当日は患部を保冷材で冷却し、患手挙上を徹底し、患部の安静を保つ。
- 処置当日・翌日の入浴、お酒、激しい運動×。短時間のシャワーは可。
- 翌日から連日通院処置とする。
- 局所感染徴候(赤み、熱感、腫脹、疼痛)が改善し、洗浄時の排液がきれいになった段階で、サーフローとペンローズドレーンを抜去する。
■ 処方箋
- オーグメンチン配合錠250RS 1回1錠 1日3回 毎食後 7日分
- サワシリンカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 7日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
破傷風トキソイドの接種を検討する
■ コスト
■ アウトカム
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