婦人科疾患の頻用3処方:体質と症状で選ぶ漢方薬
- 婦人科領域では、冷え、ホルモンバランスの乱れ、精神的ストレスが複雑に絡み合い、月経痛、PMS、更年期障害など多様な症状が現れます。
これらに対して、西洋薬だけでなく漢方薬が補助療法として活躍します。 - 特に以下の3処方は、婦人科漢方の「三種の神器」とも呼ばれる頻用薬です。
-
-
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
-
加味逍遥散(かみしょうようさん)
-
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
-
- それぞれの適応や特徴を、体質診断と臨床症状から整理してみましょう。
1. 当帰芍薬散(冷え・虚弱タイプ)
冷え症で体力が低下している女性に用いられる代表的処方
比較的体力がなく、冷え性、むくみやすいタイプ
特徴
-
比較的体力がなく、冷え性、むくみやすいタイプ
-
貧血傾向、腰痛、めまい、倦怠感があり、月経困難症や不妊症、更年期障害などに幅広く使用
-
妊娠中のつわりや流産予防、習慣流産にも応用可能
主な適応
-
更年期障害
-
月経不順・月経困難症
-
不妊症
-
妊娠中のむくみ、流産予防
-
冷え症
2. 加味逍遥散(ストレス・精神症状タイプ)
イライラや精神的緊張が強い女性に用いる
体力中等度以下で、精神的ストレスが強いタイプ
特徴
-
体力中等度以下で、精神的ストレスが強いタイプ
-
PMS、更年期障害などでイライラ、不眠、焦燥感を伴う場合に効果的
-
気血の巡りを整えることで、冷え、頭痛、肩こりにも有効
主な適応
-
更年期障害(精神症状が中心)
-
月経前症候群(PMS)
-
不眠、神経症、ストレスによる自律神経失調症
-
冷えとイライラが混在する症状
3. 桂枝茯苓丸(瘀血・体力ありタイプ)
体力があり、血の巡りが悪い「瘀血タイプ」に適応
体力があり、血の巡りが悪い「瘀血タイプ」
特徴
-
体力中等度以上で、顔色が赤い、のぼせ、下腹部の抵抗や圧痛を伴うタイプ
-
血流が滞る「瘀血」を改善し、月経痛や子宮筋腫などに効果
-
西洋薬での治療と併用しやすい
主な適応
-
子宮内膜症、子宮筋腫
-
月経困難症、月経不順
-
更年期障害(のぼせ・ほてり)
-
打撲、痔疾患
三処方の比較表
特徴 | 当帰芍薬散 | 加味逍遥散 | 桂枝茯苓丸 |
---|---|---|---|
体力 | 虚弱 | 中等度以下 | 中等度以上 |
冷え | 強い | あり(ストレスと混在) | 下半身に強い冷え+上半身ののぼせ |
主な症状 | むくみ、貧血、疲れやすい | イライラ、不眠、精神症状 | 下腹部痛、瘀血、のぼせ |
適応疾患 | 更年期障害、妊娠管理、不妊症 | PMS、更年期障害、自律神経失調症 | 子宮筋腫、子宮内膜症、月経困難症 |
臨床での使い分けのコツ
-
冷えとむくみが目立つ → 当帰芍薬散
-
精神症状(イライラ、不眠)が中心 → 加味逍遥散
-
のぼせや圧痛、血流障害が中心 → 桂枝茯苓丸
実際の診察では、体質と症状の両面から判断します。
また、PMSや更年期障害では、2処方を併用することも臨床現場では多く見られます。
手指の変形性関節症(手OA)への応用
- これら3処方(㉓当帰芍薬散、㉔加味逍遥散、㉕桂枝茯苓丸)は、手指の変形性関節症(手指OA)にも症状や体質に応じて使われることがあります(注:ただし保険病名に注意が必要)。
- 手指OAは、閉経後の女性に多く見られ、エストロゲン低下や血流障害、冷えが背景にあります。漢方では、これらの背景因子を改善する目的で処方されます。
処方 | 体質・特徴 | 手OAへの適応ポイント |
---|---|---|
当帰芍薬散(㉓) | 虚弱・痩せ型・冷え | 手指の冷えやむくみが目立つタイプ。更年期や閉経後のむくみ、軽い痛み。 |
加味逍遥散(㉔) | 中肉中背・精神症状 | PMSや更年期症状を伴う手OA。ストレスで症状が悪化する場合。イライラ、不眠を伴う。 |
桂枝茯苓丸(㉕) | 体力あり・瘀血 | 関節が赤く腫れ、熱感があり圧痛が強いタイプ。下半身冷え+上半身のぼせが目立つ場合。 |
まとめ
- 婦人科領域における漢方薬は、患者の体質に合わせたオーダーメイド治療が可能です。
- 当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸の3処方は、月経困難症から更年期障害、不妊治療まで幅広く活用されており、西洋薬との併用で症状改善が期待できます。
参考文献