Key Point Summary
瘭疽(ひょうそ) = 指腹部(pulp)の感染。膿が透見できるものを指腹部膿瘍と呼ぶ。 指腹部の皮下脂肪は線維性隔壁でコンパートメント(小部屋)状の構造をしているので切開排膿する際には十分に開放する。 処置後は、そこそこ出血するので、止血材で圧迫止血し、挙上や冷却を徹底する。
Q & A
Outline
【解剖】
- 指腹部の皮下脂肪は線維性隔壁でコンパートメント(小部屋)状の構造をしている。
【定義】
- 瘭疽は「指腹部(pulp)の感染」と定義される。膿が透見できるものを指腹部膿瘍と呼ぶこともある(両者の境界は曖昧)。
【病態】
- ささくれや小さな棘の刺創に続発して、コンパートメント内で菌が増殖すると内圧が上昇する。さらに隔壁を破壊しながら隣のコンパートメントへと進行していく。
- 起炎菌はほとんどの例でStaphylococus aureus(黄色ブドウ球菌)である。
- 瘭疽がくすぶって、感染が隣接構造へと広がると、末節骨骨髄炎、化膿性腱鞘炎、DIP関節の化膿性関節炎に移行することがある。
【病態】
- ささくれや小さな棘の刺創に続発して、コンパートメント内で菌が増殖する。
【臨床所見】
- 指腹部に発赤や腫脹を認める。
- 前述の解剖学的特徴により、感染がある程度進行しないと発赤や腫脹が目立たないことがある(判断に迷う例では健側指との比較が有用である)。
- 本症に特徴的なのは夜も寝れないようなズキズキとした痛みである。痛みはコンパートメント内圧が上昇すると出現する。
- 稀に自壊することがあり、ドレナージが効いてコンパートメント内圧が下がると痛みは劇的に改善する。
【検査】
- X線で、異物残存の有無を確認できる。また慢性症例では末節骨の融解像(骨髄炎)を認めることがある。
【治療】
- 治療の原則は線維性隔壁を開放してコンパートメント内の膿をドレナージすることである。
【瘭疽(ひょうそ)】
■ Step 1
- Xpで異物や骨髄炎がないか確認する。
■ Step 2
- 1%キシロカイン10ccで指ブロック注射する。
- 麻酔がきくまで3分待つ(炎症が強いときくまでに時間がかかる)。
■ Step 3
- 11番メスで切開する。
■ Step 4
- メスで隔壁を切離し、モスキートペアンで広げると排膿を認める。
■ Step 5
- 反対側も同様に切開する。
■ Step 6
- 橈側と尺側が末節骨下で交通するように開放する。
■ Step 7
- 生理食塩水100ccで十分に洗浄する。その際に指をミルキングして(=膿を絞り出すようにして)、深部から膿がでてこないことを確認する。
- さらにペンローズドレーンを留置する。
感染創は閉じないで開放創管理とする!
ペンローズドレーンは必ずしも貫通させる必要はないが、ドレナージが確実に効くので著者は好んで用いている。
■ Step 8
- 止血材(カルトスタット)とガーゼをあてて、布テープでガッチリと固定する。
もちろんゲンタシン軟膏やイソジンゲルを塗布してもよいが、創面からジワジワ出血していることが多いので、まずは止血を優先して、翌日から軟膏処置としている。
開放するのが基本であって、軟膏で治すものではない。
■ Step 9
- 当日は自宅内で安静にして、患手は心臓より高い位置に挙上し、保冷剤で1〜2時間冷却する。
- 当日は入浴、お酒、激しい運動は×。
- 翌日〜自宅処置(シャワー洗浄、軟膏、ガーゼを1日1回)を開始し、3日以内の再診を指示する。ペンローズはその受診の際に抜去する。
術翌日の処置時にソーブサンを無理に剥がすと痛いため、流水で浸しながらゆっくりと剥がすとよい。
処置に不安の強い患者は翌日再診を指示し、実際に処置方法を指導するとよい。
【指腹部膿瘍】
■ 処方箋
- ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
- ゲンタシン軟膏 10g 1本 or イソジンゲル 4g 1本
■ コスト
- 皮膚切開術(K001)
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