Key Point Summary
橈骨動脈穿通枝皮弁(superficial palmar branch of the radial artery flap; 以下SPBRA flap)は、橈骨動脈から分岐する浅掌枝(SPBRA)に栄養され、手関節掌側から採取する皮弁である。 SPBRA flapは、手指・手部の欠損の整容・機能再建に有用であり、上肢の皮弁再建の質を向上するためにも、やや難易度が高いが、習熟おきたい皮弁である。 SPBRA flapは、皮膚の色、質感、厚さの観点から指の特に掌側再建に有用であり、皮弁採取部の縫合線が皮線に一致するため目立ちづらく、主要血管を犠牲にしない等の利点がある。
Q & A
Outline
【SPBRA flap】
- 橈骨動脈穿通枝皮弁(superficial palmar branch of the radial artery flap; 以下SPBRA flap)は、橈骨動脈から分岐する浅掌枝に栄養され、手関節掌側から採取する皮弁である。
Linh T, Ono S, et al. Multidetector-row Computed Tomography Analysis of the Superficial Palmar Branch of Radial Artery Perforator Flaps: A Retrospective Anatomical Study. Plast Reconstr Surg (in press).
- SPBRAは、茎状突起から1〜2cm(平均13.2mm)の位置で橈骨動脈から分岐し、末梢に向かって、舟状骨結節の上を走行し、短母指外転筋内の表層を走行し、浅掌動脈弓(superficial palmar arch; SPA)を形成する場合と盲端で終わる場合がある。
- SPBRAとSPBRAから皮膚に向かう穿通枝は常に存在し、穿通枝は舟状骨結節を中心にした直径16.4mmの円の中に存在する。
- 皮弁の静脈系は、(a) SPBRA-RAに伴走する静脈と(b)皮静脈の2種類があり、より発達している方を選択する。動脈を吻合したあとの静脈還流をみて判断してもよい。
- 皮島は前述の円(穿通枝)を含んで、皮弁の長軸を掌側手首皮線に一致させる横型と、母指球皮線に一致させる縦型の2つがある。横型は50×20mm、縦型は50×15mm 程度は安全に挙上することができる。皮弁採取部は各皮線にあわせるように一期的に単純縫縮する。
- SPBRA flapは、皮膚の色、質感、厚さの観点から指の特に掌側再建に有用であり、皮弁採取部の縫合線が皮線に一致するため目立ちにくく、主要血管を犠牲にしない等の利点がある。
Step by Step
■ Step 1
- 本皮弁は、指尖指腹部全体(DIP以遠・掌側)の大きな欠損によい適応である。また指体部掌側の欠損にも有用である。
- 手関節掌側に紡錘形の皮島を作図する。皮島は前述の舟状骨結節を中心にした直径16.4mmの円を含むようにする。
橈骨動脈系の皮弁であるため、皮島はやや橈側に作図したほうがよい。長掌筋腱(PL)よりも尺側の血流はやや不安定である。
皮弁の短軸幅は皮膚のピンチテストで決定する。おおよその目安として2cmまでであれば単純縫縮可能である。
■ Step 2
- 手術は全身麻酔下、上肢タニケット駆血下でおこなうのが望ましい。
■ Step 3
- まずレシピエント(指)のPIPJ以遠の側正中線に沿った皮膚切開を加え、掌側の指動脈、背側の指背静脈を同定しておく。
- DIPJをまたいで皮弁を配置する症例では、DIPJ伸展位で1.0 Cワイヤーで斜めに一時固定しておくとよい。
■ Step 4
- 皮弁の橈側半分を15番メスで皮膚切開する。
この際、皮弁の中枢側には皮静脈を含める可能性があるため、いきなり深く切り込んで真皮直下の皮静脈を損傷しないように注意する。
- まず橈骨動脈とその伴走静脈(通常2本)を同定し、そこから掌側&やや尺側に向かうSPBRAとその伴走静脈を同定する。同定したらベッセルループで保護する。
- さらに皮弁の近位側を走行する皮静脈を創縁を筋鉤で牽引しながら、可能な限り長く確保する。通常、≧3cmは確保可能である。
- SPBRAの近位側が同定したら、遠位側の皮膚切開部からSPBRAの遠位側を同定する。通常は短母指外転筋(APB)の起始部の線維性組織内を走行している。
- 皮弁の尺側(PL腱より尺側)は解剖学的に重要な組織はないため、掌側手根靱帯上の層で速やかに皮弁を挙上する。
SPBRAから皮膚に向かう皮膚穿通枝は同定する必要はない。穿通枝周囲の脂肪組織を剥離せずに温存することで手術成績は向上する。
■ Step 5
- SPBRAの近位側は、橈骨動脈から分岐した直後で結紮、遠位側は皮弁の遠位縁で結紮する。
- 皮弁を掌側手根靱帯上の層で挙上する。
- 遊離皮弁として挙上する。
皮弁の動脈茎は通常2cmと短い。
皮弁の静脈系は、(a) SPBRA-RAに伴走する静脈と(b)皮静脈の2種類がある。より発達している(太い)方を選択する。動脈を吻合したあとの静脈還流をみて判断してもよい。
■ Step 6
- 皮弁をレシピエント(指の欠損部)に移植し、5-0 ナイロンで粗く縫着しておく。この際、血管吻合部が皮弁で被覆できるように皮弁を配置するとよい。
- Step 3で同定した指動脈と皮弁のSPBRA、指背静脈と皮弁の静脈をそれぞれ端々吻合する。通常、10-0ナイロンをもちいる。
皮弁の静脈を(a) SPBRA-RAに伴走する静脈と(b)皮静脈の両方つけて挙上し、動脈吻合後により静脈還流が多い静脈を選択して指背静脈を吻合してもよい。
静脈は2本吻合するのが理想的であるが、スペース的に1本しか吻合できないことも多々ある。
■ Step 7
- 皮弁採取部は一期的に単純縫縮する。4-0PDSで真皮縫合、5-0ナイロンで表層縫合する。
- 皮弁は5-0ナイロン緩やかに縫着し、欠損を埋めようとして無理に緊張をかけて縫縮しないように注意する。
緊張が強い場合は、手関節を軽度屈曲位で、抜糸をする術後2週までシーネ外固定を継続するとよい。
■ Step 8
- 背側からシーネ外固定する。
- ストッキネットと点滴棒を用いて挙上する。
手指の皮弁において、術後の挙上はとても重要である。術後1〜3日の浮腫に皮弁が耐えられるかが勝負の分かれ目となる。
■ 術後
- 患部の安静、挙上を徹底する。
- 皮弁のモニタリングは通常の遊離皮弁と同じである。
- 術翌日から、PIPJの軽い自動運動(active ROM ex)を開始する(血管吻合部はPIPJより遠位なので、悪影響はない)。頻度は2〜3時間毎に5分程度である。適度な自動運動を推奨することで手指の浮腫は改善する。術後浮腫はPIPJの屈曲拘縮の原因になるため、PIPJの自動伸展を特に意識させる。
- 術後処置:術後1週以内は汚染したガーゼを適宜交換し、フィブラストスプレー、ゲンタシン軟膏(or プロスタンディン軟膏)で保湿する。
- 術後3日間、皮弁トラブルがなければ、4日目から患肢挙上を徹底したうえで病棟内歩行を可にしている。皮弁血行が不安定な場合は、術後1週間はベッド上管理とする。
- Cワイヤーの抜去の目安は、術後1〜2週である。
- 抜糸の目安は、術後2週である。
- 抜糸後、日中はフリーとし、raw surface部の軟膏処置を継続する。夜間はアルフェンスシーネでPIP関節を伸展位に保つ。
- 上皮化完了後は、手術痕上にエクラープラスター(ステロイドテープ)を貼付するとよい。
■ 処方箋
- セファゾリンNa点滴静注用1gバッグ 1日3回 3日分
- ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
- ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
- フィブラストスプレー500(処置時に使用)
- ゲンタシン軟膏 10g 1本 or プロスタンディン軟膏30g 1本
■ コスト
■ 長期経過
- 術後10ヶ月