




30秒でわかる Key Points
- 受傷後早期でズキズキと痛む爪下血腫では、穿孔ドレナージを考える。
- 穿孔の目的は、爪の下に閉じ込められた血液を逃がして減圧すること。
- X線にアクセスできる環境では、末節骨骨折の見落としを避けるため原則撮影する。
- 爪甲脱臼、大きな爪床損傷、重要な骨折があれば、単純穿孔だけで終わらせない。
まず押さえたい爪の解剖
処置で知っておきたいのは、爪甲・爪床・爪母の3つです。
- 爪甲:普段「爪」と呼んでいる硬い部分
- 爪床:爪甲の直下にある、血流と知覚に富む組織
- 爪母:爪の根元にあり、爪を作る部分
爪下血腫では、爪甲と爪床の間に血液がたまります。
穿孔では爪甲に孔を開けて減圧します。

爪の正常解剖
病態・診断
なぜ痛い?
外傷による出血が、硬い爪甲の下に閉じ込められるためです。
血液の逃げ場がないまま内圧が上がると、ズキズキするような拍動痛が生じます。
穿孔して圧を逃がすと、疼痛が速やかに改善することがあります。

爪下の閉鎖空間で圧が上がることで痛みが生じる
診察|まず見るのは4つだけ
単純穿孔でよい症例か、次の4点を確認します。
- 痛みは強いか:特に拍動痛があるか
- 血液が閉じ込められているか:自然に排液していないか
- 大きな爪損傷がないか:爪甲脱臼、浮遊爪、大きな裂創がないか
- 骨折・神経血管障害を疑わないか:強い圧痛、変形、感覚・血流異常がないか
ポイントは、「血腫を穿孔すればよい症例か、それ以上の指尖損傷なのか」を見極めることです。
X線はいつ撮る?
ERでX線にすぐアクセスできるなら、当サイトでは見落とし予防のため原則撮影をおすすめします。
末節骨骨折を合併していると、固定や専門医紹介の方針が変わることがあるためです。
すぐにX線を撮れない環境では、次の所見を重視します。
- 強い圧挫外傷
- 末節骨の強い圧痛
- 指尖の変形
これらがあれば骨折を疑い、可能になり次第X線で確認します。

末節骨tuft部の骨折を伴う症例
ドレナージする?経過をみる?
経過観察でよいことが多い
- 痛みが軽い、またはほとんどない
- すでに自然排液され、疼痛が改善している
- 受傷から時間が経ち、血腫が凝固している
穿孔ドレナージを考える
- 受傷後早期で、ズキズキする疼痛が強い
- 血液が爪の下に閉じ込められ、自然に排液していない
穿孔の目的は、閉鎖された爪下血腫を開放して減圧することです。
受傷後24〜48時間程度を過ぎると血液が凝固し、十分に排液できないことがあります。
専門医へつなぐ
- 爪甲脱臼・浮遊爪、広範な爪床損傷
- 転位骨折、関節内骨折、Seymour骨折(小児の末節骨骨端線損傷に爪床損傷を伴う開放骨折)
- 神経血管障害や大きな指尖損傷
このような症例は、単純な「血腫を抜く処置」だけでは終わらせません。
Step by Step|爪下血腫のドレナージ
Step 1|適応を確認する
拍動痛が強く、血液が爪の下に閉じ込められているかを確認します。
- 大きな爪損傷がない
- 重要な骨折・神経血管障害がない
Step 2|18G針で爪甲を穿孔する
18G針の先端を血腫直上の爪甲に斜めに当てます。
強く押し込まず、クルクルと回旋させながら爪甲を削るように孔を作ります。

18G針の先端を血腫直上の爪甲に斜めに当てる

針をクルクルと回しながら爪甲に孔を開ける

血腫がドレナージされると痛みがとれる
- 針を一気に深く刺さない
- 排液が始まったら、それ以上深く進めない
- 爪母領域への不要な操作を避ける
注意
爪床へ針を「刺す」のではなく、爪甲を少しずつ削って孔を作るイメージです。
Step 3|疼痛が改善したか確認する
孔が血腫腔に達すると、血液が排出されます。
- 血が出たかだけでなく、拍動痛が改善したかまで確認する
【写真6:ドレナージ後】
Step 4|電気焼灼法という選択肢
電気焼灼器が使用できる施設では、ニードル型電極などで穿孔する方法もあります。
血液が排出されたら止めます。
注意
電気焼灼器を使用する際は、可燃性のアルコール系消毒剤に注意します。
Step 5|ガーゼで軽く保護する
穿孔部を清潔なガーゼで軽く保護します。
少量の排液が続くことがあります。
- 残った血液を無理に絞り出さない
帰宅時の説明
自宅では
- 患指を清潔に保つ
- 当日は安静・挙上を心がける
- 保冷剤などで冷却すると、疼痛や腫脹の軽減につながる
- ガーゼが汚れたら交換する
保冷剤はタオルなどで包み、皮膚に直接長時間当てないようにします。
早めに再診してほしいサイン
- 拍動痛が再び強くなる
- 発赤・腫脹・排膿が増える
- しびれ、指が白い・冷たいなどの異常がある
基本は平日日中の外来へつなぐ
ERでは、すべてを夜間に完結させることよりも、今夜見逃してはいけない損傷を確認し、必要な初期処置を行って、翌日以降の外来へ安全につなぐことが大切です。
爪床損傷や骨折が疑われる場合、症状が残る場合は、整形外科・手外科などで再評価します。
骨折を伴っていたら?
骨折がある=手術ではありません。
- 非転位のtuft fracture(末節骨先端の小さな骨折)は、保存的に治療できることが多い
- 転位骨折、関節内骨折、Seymour骨折は専門医へ相談する


抗菌薬は必要?
単純な爪下血腫に、予防的抗菌薬をルーチンで投与する必要は通常ありません。
- 骨折のない単純例では原則不要
- tuft fractureでは、創の汚染や患者背景(易感染宿主など)をみて判断する
- Seymour骨折や感染リスクの高い症例は別に考える
一人当直で困ったとき
一人当直の現実対応
今夜のゴール
単純な爪下血腫か、それ以上の指尖損傷かを見極める。
無理に完結させない
爪甲脱臼、大きな爪床損傷、重要な骨折があれば、慣れていない処置を無理に夜間に完結させません。
平日日中へつなぐ
必要な初期処置と安全確認を行い、基本は翌日以降の平日日中の専門外来へつなぎます。
Take-home Message
- ズキズキ痛み、血液が爪の下に閉じ込められているなら穿孔を考える。
- X線にアクセスできるなら、末節骨骨折の見落としを避けるため原則撮影する。
- 大きな爪損傷や重要な骨折はERで無理に完結させず、平日日中の専門外来へつなぐ。
Evidence|もう少し深く知りたい人へ
実臨床で押さえておきたい代表的な文献を3本に絞ります。
- Seaberg DC, Angelos WJ, Paris PM. Treatment of subungual hematomas with nail trephination: a prospective study. Am J Emerg Med. 1991;9(3):209-210.
要点:単純な爪下血腫では、爪甲穿孔によって速やかな疼痛軽減が得られ、良好な転帰が期待できることを示した前向き研究。 - Roser SE, Gellman H. Comparison of nail bed repair versus nail trephination for subungual hematomas in children. J Hand Surg Am. 1999;24(6):1166-1170.
要点:爪甲・爪郭が保たれた小児では、大きな血腫でも必ずしも抜爪・爪床修復を必要とせず、穿孔または経過観察で良好な結果が得られることを示した研究。 - Simon RR, Wolgin M. Subungual hematoma: association with occult laceration requiring repair. Am J Emerg Med. 1987;5(4):302-304.
要点:大きな爪下血腫では末節骨骨折や爪床裂創を伴うことがあり、血腫だけでなく背景の指尖損傷を評価する重要性を示した研究。
動画で見る
ER創傷 Step by Step 001|YouTube
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