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【Step by Step 手術手技】爪床欠損にたいする人工真皮移植

Key Point Summary

爪床欠損は、直径≦3mmであれば保存治療が可能とするエビデンスがある。

bFGF(フィブラスト)スプレーや人工真皮を使用することで、どの程度まで保存治療可能かは明らかになっていない。

爪床欠損が大きい場合は、第1足趾からの爪床移植を考慮する。

 

 

Q & A

resident
爪床欠損で保存治療が可能な大きさの目安ってありますか?

直径≦3mmであれば保存治療が可能とする1970年の報告があるよ。ただ現在ではフィブラストプスレーや人工真皮が使えるようになったので、もう少し大きな欠損でも保存治療が可能と考えられているよ。新たなエビデンスが欲しい領域だね。
medical advisor

resident
爪床移植が必要な大欠損の場合、ドナーはどこになりますか?

爪床欠損は爪床でしか再建できないんだ。手指の大きな爪床欠損にたいしては、第1足趾から爪床移植することが多いよ。
medical advisor

 

 

Outline

解剖

爪の解剖

 

 

爪床損傷

  • 爪床が挫滅しているだけの場合(=爪床欠損がない場合)は、6−0PDS、5−0バイクリルなどの細い吸収糸でゆるく結節縫合するだけでよい
  • 爪床欠損+の場合、小範囲(直径≦3mm)の時は保存治療で治癒可能とする報告がある
    (東禹彦: 爪母および爪床生検の爪甲再生に及ぽす影響.皮膚12:78.1970.)
  • 一方で、爪床欠損の位置も重要である。爪床の中央に欠損がある場合は、周囲の爪床から創治癒が期待できるため、経験上3mm以上の欠損でも人工真皮貼付のみで保存的に治癒する。爪床欠損が爪床末梢にあり、且つ、その欠損が大きい場合(目安として爪甲面積の1/2以上)は爪床移植が必要となる。

指を機械に挟んで受傷した。爪甲は抜けてなくなっている。末梢側の爪床欠損を認める。

末節骨tuft部の開放骨折を認める。

 

 

■ STEP 1 

  • 指ブロック麻酔+滅菌手袋をつかった指タニケットで手術可能である。
  • 0.75%アナペイン10ccで指ブロック注射する(1%キシロカインでもよいが手術時間が1〜2時間をこえると術中に麻酔がきれてくることがある)。
  • 麻酔がきくまで3分待つ。

 

■ STEP 2 

  • 本症例の末節骨骨折はtuft部(下図:末節骨末梢の膨らんでいる部分)の骨折であるため、本来であれば鋼線固定の必要はないが、爪床を整復する目的、軟部組織の血流安定目的で0.8mm Kワイヤーを2本刺入した。
  • Kワイヤーは皮膚ギリギリでカットして埋め込んだ。

tuft部の骨折は通常 鋼線固定の適応はない

tuft部の骨折を鋼線固定

 

■ STEP 3

  • 12×8mmの比較的大きな爪床欠損を認めるが、欠損周囲に爪床成分が残存しているため、人工真皮貼付の方針とした。
  • 人工真皮にはインテグラ単層式(Thin)(フィルムがないコラーゲン層だけの人工真皮)を選択した。

爪床欠損

インテグラ単層式Thin:袋からだして生食に漬けておく。

台紙(フィルム)からはがして使用する。寒天のような質感である。

インテグラ単層式Thinを爪床欠損に貼付する。

インテグラ単層式を爪床欠損に貼付した直後。

 

 

■ STEP 4

  • 爪甲の形状に加工したフィルム(インテグラ単層式Thinの台紙)に18G needleでドレナージ孔を複数あけて、爪甲の代わりに爪母と爪上皮の間に挿入する。

本症例のように爪母にも創がある場合、爪母-爪上皮間に癒着が生じて爪が割れて生える(split nail)になる可能性があるためフィルムシートを挟むとよい

人工真皮貼付部は乾燥しないようにwet dressing管理とする。フィルムシートはwet dressing目的でも都合がよい。

 

 

■ STEP 5

  • 術後のwet dressingは具体的には、(A)洗浄、フィブラストスプレー噴霧、プロスタンディン軟膏による連日の外用処置、または(B)洗浄、フィブラストスプレー噴霧、創傷被覆材(ハイドロサイトなど)による2〜3日ごとの処置を選択する。
  • フィルムは術後3週間で抜去する
  • 末節骨骨折は約2週間ごとにXpで評価し、術後2〜3ヶ月程度で骨癒合が得られたらKワイヤーを抜去する。皮膚表面からKWの断端が確認できれば、無麻酔でペアンなどで断端を把持して抜去する。断端が確認できなければ指ブロック下にて小切開を加えて同様に抜去する。

 

 

■ 術後経過

  • 以下、術後の経過写真を提示する

(左)術後12日、(右)術後19日

(左)術後1ヶ月、(右)術後2ヶ月

 

(左)術後3ヶ月、(右)術後5ヶ月

 

術後9ヶ月

 

 

■ 処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後  3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分

 

  • フィブラストスプレー 500μg 1本
  • プロスタンディン軟膏 30g 1本

フィブラストスプレー

 

■ コスト


人工真皮は特定保険医療材料であり、償還価格(450円/cm2)が決まっている。病名に「皮膚欠損創」の追加が必要となる。

 

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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