plastic surgery

【Step by Step 手術手技】腋臭症→皮弁法

Key Point Summary

腋窩部を横切開し、皮膚を翻転させて、汗腺を剪除する方法である。

横切開汗腺剪除法や反転剪除法と呼ばれる。

特別な機器を要さず、直視下で汗腺を除去できるため、確実に効果が期待できる。

横切開による汗腺剪除法は、日本医科大学形成外科の初代教授の文入正敏先生の報告が最初とされているよ。
(文入正敏. わきが手術形成外科1968;9:61-62.)
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術前説明

  • 臭いは術前を10とした場合、2〜3程度は残る(=無臭になるわけではない)。
  • 臭いと同時に、汗の量も減少はするが完全になくなるわけではない。
  • 腋毛は減少する。
  • 合併症の可能性:血腫、創離開、拘縮、肥厚性瘢痕、しびれ、等。

 

Step by Step

 

■ Step 1 

  • 術者の視点で術野が十分に確保でき、且つ、患者が楽な姿勢を確保する。
  • 具体的には、患者に、仰臥位、肩関節外転、上腕外旋位(=腕を曲げて頭の下に手を置く「手枕」の状態)をとってもらう。

手を頭の下に置かない場合、手関節の下に枕を置くと患者が楽である。

 

■ Step 2 

  • 腋毛のある範囲(アポクリン汗腺の存在する位置)を点線でマーキングする。
  • 切開線を作図する。皺に平行な1本線でおこなう形成外科医も多いが、著者は2本線を好んで用いている。
剪除に慣れた先生であれば、1本線で問題ないよ。2本線にすると、双茎皮弁の部分(2本線の間)をかなり薄くしても皮膚の血行障害は生じづらいよ。1本線の場合と比較して、より短い切開で広範囲にアプローチできるよ。
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2本線切開のデザイン。

 

■ Step 3

  • 手術は全身麻酔下と局所麻酔下のいずれも可能である。著者は患者さんのスケジュールが許せば、術後2〜3日の入院をすすめている(全麻 or 局麻にかからず)。術後2〜3日の安静が保てれば、本手術の最大の合併症である血腫のリスクを最小減にできる。局所麻酔&日帰りで手術をする場合は、右と左を別々で手術をする形成外科医もいる。術後に両上肢が使えないと、生活するのは困難である。
  • 麻酔は1%Eキシロカインを2倍希釈して片腋窩で最低20ccは使用する。23G針をもちいて皮下脂肪の層に広範囲に注入する(tumescent local anesthesia; TLA)。
術中の出血量を最小減にするために1%Eキシロカインを十分にきかせることが重要だね。手術時間が1時間をこえそうであれば0.75%アナペインを混注することもあるよ。
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■ Step 4

  • 15番メスで皮膚切開する。皮膚は柔らかく動きやすいので左手でカウンターをかけて切開するとよい。
  • 真皮の直下に赤みがかったアポクリン汗腺の層を確認できる。

15番メスで皮膚切開する。

黒矢印:真皮の直下に赤みがかったアポクリン汗腺の層を確認できる。

 

皮膚表面からアポクリン汗腺下端までの距離は平均3.7mmと言われているよ。

吉弘一郎. 腋臭の臨床及び病理知見補遺 第1編:臨床統計的観察. 日皮会誌1942;51:538-556.

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■ Step 5

  • アポクリン汗腺直下の皮下脂肪の層に、剪刀を刺入し、開きながら剥離する。
  • 垂直方向の固い索状物は直視下にバイポーラで焼灼して切離する。
  • 前述の点線の範囲を十分に皮下剥離する。

創縁の皮膚を鈍的に摘ままないようにする。有鉤摂子の鉤をひっかけるか、スキンフックを使用するとよい。

 

 

■ Step 6 

  • 皮膚を翻転して、アポクリン汗腺を直視下に確認する。
  • 曲剪刀の凸面を下にして、アポクリン汗腺(白矢印)と毛根を極力切除する。下写真のように白くなるまで(黒矢印)切除する。その際、真皮下血管(青矢印)は極力温存するとよい。
  • 剪除すると白い真皮と皮脂腺が確認できる。

皮膚が弛んだ状態で剪除すると皮膚に穴が空くので、指で皮膚を緊張させた状態で剪除するのがコツである。

白くなるまで(黒矢印)、アポクリン汗腺(白矢印)を切除する。その際、真皮下血管(青矢印)は極力温存する。

 

■ Step  7 

  • バイポーラで止血する。
  • 生理食塩水で洗浄する。

 

■ Step 8 

  • 4−0PDSで真皮縫合を最低限いれ、あとは5−0ナイロンで皮膚縫合する。
  • ペンローズを1本(or 2本)留置する。
  • 6−0ナイロン(or 5-0ナイロン)でアンカースーチャーをかけておくとよい。この際に、誤ってペンローズを縫着しないように注意する。

 

■ Step 9 

  • タイオーバー用の糸(3−0バイクリル)をかける。
  • ソフラチュールを貼付する。
  • さばきガーゼ or さばき綿球をもちいてタイオーバーする。
タイオーバーの糸は点線よりも外側にかけて、点線をこえて広範囲をタイオーバーするとよいよ。
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■ Step 10 

  • ガーゼ、布テープで圧迫固定する。

 

■ 術後 

  • 帰室後、安静度が解除になったらクラビクルバンドで患部の圧迫をする。
  • 術後3〜5日でタイオーバーを解除し、ペンローズを抜去する。
  • タイオーバーを解除したら患部を含めてシャワー洗浄処置を可とする。
  • 抜糸の目安は術後10〜14日程度である。
  • 抜糸後は肩関節の可動域制限を解除する。

 

■ 処方箋

  • セファゾリンNa点滴静注用1gバッグ 1日3回 3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 5日分
  • ゲンタシン軟膏 10g 1本

 

■ コスト

 

■ 長期経過

  • 術後1ヶ月

腋毛が減少している。拘縮や肥厚性瘢痕は認めない。

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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