plastic surgery dermatology

【Step by Step 手術手技】陥入爪→フェノール法

Key Point Summary

 

フェノール法:爪母を凝固変性することで爪幅を狭くする。

手術と比較して術後の痛みが少ない傾向にある。

生まれつき爪の幅が広いことが原因で、且つ、繰り返す陥入爪によい適応である。

 

Q & A

 

resident
陥入爪にたいする外科的治療って何があるんですか?

爪母を凝固変性するフェノール法と爪母をメスで切除する手術法の2つに大別されるね。どっちも爪母を処理することで爪幅を狭くして陥入爪を根治させようというものだね
medical advisor

resident
どちらがいいんですか?

最近はフェノール法が人気あるね。フェノール法は手術と比較して、簡便で、特殊な器械を必要とせず、感染を伴っていても施行可能だよ。あと術後の痛みが少ないのも魅力的だね。
medical advisor

 

 

Outline

【概要】

  • 陥入爪にたいするフェノール法は1945年のBollの報告にはじまり、1985年に上竹により国内に報告されて以降、国内で急速に普及した。
    (上竹正弱. 陥入爪(爪刺)の治療-爪母基フェノール法の紹介-.日本医事新報1985;3244:14-18.)
  • 爪母をフェノールで凝固変性することで爪幅を狭くする。
  • フェノール法は手術と比較して、簡便で、特殊な器械を必要とせず、感染を伴っていても施行可能である。また術後の痛みが少ないのも特徴である。
  • 再発率が低く(平均6.9%)、術後成績も従来の手術と比較して同等以上である。

左第I趾の陥入爪。
爪が軟部(皮膚・皮下脂肪)に食い込んで腫れ、腫れるのでさらに爪が食い込む、という悪循環に陥っている。

 

■ 適応 

  • 生まれつき爪の幅が広いことが原因で、且つ、繰り返す陥入爪に良い適応である。
  • フェノール法は今まさに炎症を伴っている例にも適応がある(フェノール法は縫合を要さず開放管理とするため)。

 

陥入爪にたいするフェノール法

■ Step 1 物品を準備する

  1. 麻酔:1%キシロカイン10ml (or 0.75 %アナペイン10ml)
  2. 趾タニケット: ネラトンカテーテル &モスキートペアン鉗子(or 手術用滅菌手袋)
  3. モスキートペアン鉗子、メッツェンバーム剪刀(先が鈍の直型が操作しやすい)
  4. フェノール:2〜3mlあれば十分。純度88%以上の新鮮なものを使用する。
  5. 極細(直径<2mm)の綿棒10本
  6. 無水エタノール:10ml
  7. 生理食塩水:20ml
  8. ゲンタシン軟膏
  9. ガーゼ 布テープ
  10. タイマー:30秒計測するもの

準備する物品。

フェノールは純度88%以上の新鮮なものをもちいる。

 

■ Step 2 

  • 1%キシロカイン10cc (or 0.75%アナペイン10cc: 著者は作用時間が長い本剤を好んで使用している)で趾ブロック注射する)
  • 麻酔がきくまで5分以上待つ(炎症があるので長めに待つ)。
  • その間にモスキートペアンとメッツェンバーム剪刀(先端が直&鈍なもの)を準備する。

炎症がおこっているときは麻酔が効くまでに通常よりも時間がかかるので、5分以上待った方が確実である。陥入爪の患者は痛みに敏感になっているので、しっかり麻酔を効かせてから手術をする。その間に物品の準備・確認をおこなう。

フェノール、エタノール、生食はすべて透明の液体なので、必ず容器やシリンジに名前を記入して区別できるようにする。

フェノールを局所麻酔と勘違いして局注してしまった医療事故が過去に報告されているよ。
medical advisor
 

 

■ Step 3 

  • ネラトンカテーテル &モスキートペアン鉗子(or 手術用滅菌手袋)を用いて患趾を駆血する。


駆血しないで出血がジワジワでている状態でフェノール法をすると効果が激減する。駆血して無血野で手術をするのがコツである。

 

■ Step 4 

  • モスキート(骨膜剥離子を好むDrもいる)で食い込んでいる爪(通常2〜3mm)とその周囲の皮膚を剥がす


モスキートの先端を後爪郭(皮膚)と爪表面の間、さらに爪裏面と爪床・爪母の間に、それぞれグッと押し込んで、ゆっくりと先端を広げることで剥離する。

 

■ Step 5

  • メッツェンバーム剪刀(直)で食い込んでる爪を縦方向にカットする。

この時、後爪郭(皮膚)をキズつけないように注意する。

爪を切除し過ぎないように食い込まない最小限の幅(側爪郭に隠れた部分のみ)でカットする。側爪郭にむかって爪甲のカーブが残るぐらいでカットするのが仕上がりがよい。

 

■ Step 6

    • モスキートで爪甲を挟んで引き抜く。

引き抜いた後に爪甲の遺残がないか確認する。遺残があると、再発や痛みの原因となる。

無理にひっぱると爪母や爪床が損傷する可能性があるため、ひっぱっても抜けなければSTEP4の剥離を再度おこなう。

 

■ Step 7

  • フェノールを浸した綿棒を手に取り、垂れないように余分なフェノールを拭き取る。

 

■ Step 8

  • フェノールをひたした綿棒を後爪郭下面、爪母、外側爪洞、爪床のみにあてる(要は、下図にように爪を抜去した部分で来た洞窟に挿入する)。
  • 30秒たったら新しいフェノール綿棒にかえ、それを10セットおこなう(介助者にタイマーを渡し、30秒たったら教えてもらうとよい)。施設によっては6セットのところもあり、"お作法"が異なる。

処置中は刺したまま放置にするのではなく、綿棒の先を軸方向に回転させながら、さらに前後に動かすことでフェノールを満遍なく&確実に組織に浸透させることができる。

肉芽は陥入している爪がなくなれば自然に消失するため無理に処理しなくてよい(著者は処置していない)。一方で、肉芽を切除してフェノールで止血するDrもいる。

フェノールが効いた部分は灰白色になる。

 

■ Step 9

  • 10セットおわったら、無水エタノール10ccで洗浄する。フェノールの反応を中止させる効果がある。


この操作をしないでフェノールが残存したままにすると、本来は凝固変性しなくてもよい周辺の組織まで深達してしまう可能性がある。

 

■ Step 10

  • さらに生理食塩水で洗浄する。

 

■ STEP 11

  • タニケットを解除する。通常、出血しないことが多い
  • ゲンタシン軟膏を塗布する。

 

■ STEP 12

  • ガーゼと布テープで固定する。

 

■ STEP 13

  • 当日は自宅内で安静にし、足台やクッション等で患足を挙上し、保冷剤で1〜2時間冷却する。
  • 入浴、お酒、激しい運動は当日は×。
  • 翌日以降はシャワー洗浄、軟膏処置とする。
  • 通常2週間ほどで上皮化して浸出液がでなくなる。


フェノール法は術直後の出血が少ない手術である。ただし手術後すぐに歩くと出血がガーゼ表面まで染み出てくることもあるので、10分ほど患肢挙上してから帰宅を許可する(保冷剤の併用も○)。

 

■ 処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後  3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ゲンタシン軟膏 10g 1本 

 

■ コスト

 

■ アウトカム

  • 合併症:疼痛(手術より疼痛は少ない)、再発(1.1〜24%:平均6.9%)

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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