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【Step by Step 手術手技】手指の皮膚欠損 → 植皮

Key Point Summary

指尖指腹部の欠損で、軟部がある程度残っている場合は、手掌部からの厚め分層植皮はよい適応である。

手掌部の欠損を手掌部の皮膚で再建する治療戦略は、整容的な観点のみならず知覚回復の観点からも優れている。

採皮刀で厚め分層採皮をするのに技術と経験を要する。

植皮のドナー(採皮部)は止血材で止血し、あとは湿潤療法で上皮化させる。

 

 

Q & A

 

resident
指尖指腹部の欠損に植皮をする場合、ドナーはどこがオススメですか?

類似した皮膚(similar tissue: 手掌 or 足底の皮膚)をドナーにして植皮をするのがいいよ。Color match と texture matchが優れているだけでなく、知覚回復も良好であることがわかっているよ。ドナーは、手掌や足底からの厚め分層、内果下部から全層が候補となるよ。
medical advisor

resident
手掌から採皮する場合は厚め分層(ドナーは上皮化)と全層(ドナーは縫縮)のどちらがいいのですか?

明確な基準はないけど、個人的にはwound bed preparationが良好な場合は厚め分層を選択してるよ。一方で、瘢痕拘縮を解除するような場合は、できるだけ皮膚が厚くとれて植皮片の二次収縮がない全層植皮を選択しているよ。全層植皮を採取する場合は、キズアトが皮線や側正中線に一致するように配慮しようね。
medical advisor

 

 

 

 

Outline

【概要】

  • 指を挟んで引き抜いた際に受傷しやすい。
  • (1)末節骨が骨折する場合と、(2)末節骨はインタクトで、皮膚のみが剥脱する場合、の2パターンがある。
  • 皮膚軟部組織欠損のボリュームが大きい場合、つまり、指尖指腹部が斜めに欠損して末節骨が露出する and/or 末節骨骨折を伴う場合、は皮弁による再建が望ましい。
  • 皮膚軟部組織欠損のボリュームが小さい場合、つまり、末節骨露出がなく、皮下脂肪がある程度温存されている場合は、植皮の良い適応である。
  • 指尖指腹部の欠損に対する植皮のドナーとしては、手掌や足底からの厚め分層内果下部から全層が望ましい。色・質感・感覚回復の観点から優れている。

指尖指腹部は知覚が発達している部位。類似した皮膚(similar tissue)、つまり、手掌または足底の皮膚で再建すると周囲からの知覚の回復が期待できるよ。掌側の欠損に対して掌側の皮膚で再建する治療戦略は、見た目だけでなく知覚回復の観点からも重要だね。
medical advisor

 

受傷直後。レントゲンで骨折は認めず皮下脂肪もある程度保たれている。当日は十分洗浄し人工真皮を貼付した。剥脱した皮膚がある場合は、この時点で植皮をする。

 

右中指・環指の指尖指腹部の皮膚欠損。受傷から数日経過している。レシピエントのwound bed preparationは良好であり、母指球、小指球部からの厚め分層植皮を計画した。

 

 

 

■ Step 1 

  • 本症例では、全身麻酔、上肢タニケット駆血下にて手術をおこなった。
  • レシピエントは鋭匙で軽く表面を擦るにとどめ、洗浄しておく。

腕神経叢ブロックを併用すると、術中のタニケットペインが生じず浅麻酔で管理が可能であり、術後の痛みも最小限で済む。

レシピエントは乾燥しないように生食ガーゼなどで被覆しながらSTEP2以下の手術をすすめる。

 

 

■ Step 2 

  • 採皮刀(カミソリ)をわずかに弯曲させる。
  • ノコギリの要領で、刃を前後に動かしながら採皮する。


皮膚の接線方向にテンション(緊張、張力)をかけながら採皮するとよい。

浅すぎると角質しかとれず、深すぎると脂肪が露出し、ドナーの創治癒遅延や異常瘢痕が生じる。適切な厚さで採皮するためにはある程度の経験を要する。

 

皮膚の接線方向にテンションをかけているのがポイントである。

 

ノコギリの要領で刃を前後に動かしながら採皮をする。

 

 

■ Step 3 

  • 厚め分層採皮をした植皮片のうち、辺縁は角質なので、剪刀で切除する。
  • 使用するのは中心部の白い部分(真皮成分)のみである。


切除する角質部分を考慮して、採皮はやや大きめにおこなっておく。

 

 

 

 

■ Step 4 

  • バイポーラで採皮部の止血をする。


脂肪がうっすらと透見できる程度が、適切な厚さで採皮できた証拠である。

上肢タニケットで駆血していないと、この段階で出血のコントロールに難渋する。タニケットを使用した無血野での手術が望ましい。

 

 

■ Step 5 

  • 植皮片をレシピエントに移植し、6-0ナイロンで縫着する。


植皮片が欠損周囲の健常皮膚とオーバーラップしないようにする。やや隙間があいているぐらいでちょうどよい。

植皮片下に血腫が介在しないようにanchoring sutureを追加するとよい。

 

植皮片の中心の糸がanchoring sutureである。

 

 

■ Step 6 

  • 植皮片上はアダプティック(or エスアイ・メッシュ)ゲンタシン軟膏で保湿し、ガーゼと包帯をを巻き付け布テープで固定する。
  • 母指球・小指球部のドナーは、植皮片が余ればバイオロジカルドレッシング目的で戻して縫着し、上からソーブサン(またはカルトスタット)を貼付する。
  • 指間部にさばきガーゼをいれながら、bulky dressing、手背側から手関節をまたいでシーネで外固定する(手術当日は患側上肢が腕神経叢ブロックで麻痺した状態になっているため)。


ドナー(手掌部)のガーゼとレシピエント(指先)のガーゼを別々にし、術後2〜3日後にドナーだけ部分的に開窓して創チェックできるようにドレッシングすると術後管理が楽である。

 

ソーブサン=止血材

カルトスタット

 

 

■ 術後ケア

  • 患手はシーネの上からストッキネットをかぶせて点滴棒などで挙上する。その際に、肘周りを枕などで固めておくと安定する。
  • 手術当日は、肘周りをを保冷材で2〜3時間程度冷却する。
  • ドナーは血腫などで汚染・感染することがあるため、術後2〜3日目に部分的に開窓して、確認する。血腫があれば除去し、イソジンで消毒する。


創面に固着しているソーブサン(or カルトスタット)は無理に剥がさない。イソジンで消毒し、GM軟膏を上から塗布する。

  • 術後7日目にドナーとレシピエントのすべてのガーゼを除去する。
  • 抜糸は7〜14日を目途におこなう。開放創は、洗浄、フィブラストスプレー、GM軟膏で管理する。創傷被覆材を併用してもよい。

 

 

■ 処方箋

  • セファゾリンNa点滴静注用1gバック 1日3回静注 3日間
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • フィブラストスプレー
  • ゲンタシン軟膏10g 1本 1日1回処置時に外用

術後1週間。 ドナーの黒い部分は血液が付着したソーブサンである。

術後1ヶ月。

 

術後6ヶ月。

術後6ヶ月。

術後6ヶ月。


 

 

■ コスト

 

 

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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