plastic surgery dermatology

【診療Tips】陥入爪の再発予防に有効なテーピング法|臨床医が実践する爪周囲の皮膚牽引テクニック

はじめに

  • 陥入爪(ingrown nail)は形成外科・皮膚科・整形外科いずれの外来でも頻繁に遭遇する疾患であり、疼痛・炎症・感染を繰り返すことで慢性化しやすい。

  • 外科的治療(ガター法・部分抜爪)を行っても、「再発予防」こそが最大の課題である。

  • ここでは、筆者が臨床現場で実践している陥入爪の再発予防テーピング法を、医療者向けに整理して紹介する。

 

1. 陥入爪の再発機序

陥入爪の原因は、

  1. 爪そのものに起因する要因

  2. 爪以外(軟部組織・外的圧力)に起因する要因
    に大別できる。

再発を防ぐには、どちらの要素が主体かを見極め、原因に応じて介入を選択する必要がある。

陥入爪と巻き爪を混同しないようにすることが大事だよ。
medical advisor

🧩 A. 爪に原因がある場合

1. 不適切な爪の切り方(深爪)

  • 爪の角を切りすぎることで、爪の角が周囲の日宇に隠れる形になり、外から皮膚が圧迫されることで爪が皮膚に食い込む。

2. 爪の変形

  • 巻き爪では爪甲の側縁が強く内側へ巻き込むため、爪縁が皮膚側(側爪郭)に持続的に接触・圧迫する。そこに歩行時の靴圧や外力が加わると、爪縁が皮膚をさらに食い込みやすくなる。

  • 爪白癬では爪甲が肥厚し、弾力を失い硬くなる。厚くなった爪が靴などの外力で圧迫されると、爪縁が側爪郭(爪の横の皮膚)を押し込みやすくなる。

 ➡ 爪の形が変なので、その形を正常に近づける治療が必要になる。

 

🦶 B. 爪以外(軟部組織・外的圧力)に原因がある場合

3. 不適切な靴や圧迫

  • 先の細い靴・ハイヒール・サイズ不適合の靴は、足趾を内側に押し込み、爪縁が皮膚に食い込む。

  • 長時間の圧迫で爪郭皮膚が浮腫状に肥厚し、爪が沈み込む環境が形成される。

 ➡ 靴の指導は再発予防の“第二の柱”。

4. 足の指の形状・変形

  • 外反母趾・扁平足・内反小趾などで、母趾軸が変位し、爪の成長方向が斜めになる。

  • 歩行時の荷重異常により、爪縁への局所圧が増加する。

 ➡ 足底板やインソールの併用で圧分散を図ると効果的。

5. その他の要因

  • 肥満体型による足趾への荷重増大

  • 先天的に爪幅が広いなどの素因

  • 外傷・抜爪後の爪再生不全による成長方向異常

  ➡ テーピングによる皮膚側からのバイオメカニクス修正が特に有効。

 

 

2. テーピング法の原理と目的

  • テーピングは「爪を固定する」ためではなく、爪縁に圧迫されている皮膚を外側へ牽引することが目的である。つまり、「皮膚を動かして爪から逃がす」という逆転の発想である。

シンプルな方法だけどバカにできない効果があるよ。
medical advisor

 

テーピングの原理

  • 爪郭側皮膚(lateral nail fold)を外側に軽く引っ張る

  • 皮膚が爪縁からわずかに離れることで、物理的刺激が減弱し、炎症が沈静化する。

 

 

3. 使用材料と実践手順

推奨材料

  • 幅の狭い布テープ(ワーデル®、ハイラテ®など)
     → 伸縮性と粘着力のバランスがよく、皮膚刺激が少ない。剥がす際にも痛みが少なく、外来・在宅いずれでも使いやすい。

貼付手順(母趾例)

  1. 皮膚を清拭・乾燥させる。

  2. 布テープを1.5〜2cm幅・約5-8cm程度

    にカット。

  3. 爪郭外側皮膚にテープを貼付。

  4. 外側方向に軽く牽引し、一周まわして母趾背側に固定。

  5. 皮膚が爪縁からわずかに離れていることを確認。

💡 ポイント:

  • 強く引きすぎない。軽いテンションで皮膚を動かすことが目的

布テープをカットする

爪郭外側皮膚をテープで外側に引っぱる

テープを1周まわして母趾背側に固定する

爪縁と皮膚がわずかに離れているのがわかる

 

 

4. テーピング継続期間と注意点

  • 日中のみ使用し、夜間は外す(蒸れ防止)

  • 入浴時に除去して皮膚を清潔に保つ

  • 炎症・排膿がある場合は先に感染治療を行う(滲出液によりテープのつきも悪い)

 

5. 臨床医の視点

  • テーピングは軽く見られがちだが、実は「皮膚に爪が食い込んで痛いなら、爪を皮膚から離せばいい」という、とてもわかりやすい治療法である。
  • 肉芽ができるほどの重症例でも、部分抜爪で痛みをとったあと、爪が再び伸びてくる時期にテーピングで爪縁と皮膚の隙間を保ってあげることで再発を防ぐことができる。
  • 爪が皮膚をうまく“乗り越えたら勝ち”——そんなシンプルで効果的なメカニズムである。

  • This article was written by.
  • Latest Articles

Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

-plastic surgery, dermatology
-, , , , , , , , ,

© 2025 Minor Surgery & Emergency Powered by AFFINGER5