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【診療Tips】ピオクタニンブルー(メチルロザニリン)を手術で使う前に:規制・安全性・代替・院内運用

要点サマリ

  • 規制厚労省は2021年12月28日に「メチルロザニリン塩化物(=ピオクタニン)」を原則含有不可とし、代替がなくベネフィットがリスクを上回る場合のみ遺伝毒性・発がん性リスクを説明し同意の上で限定的使用を許容と通知。

  • 国内実務:上記を受けて多数の医療機関が「院内製剤としての限定運用+事前説明/同意」を採用。公開文書も整備。

  • 代替ピオクタニンフリー・スキンマーカーICG/メチレンブルーへの切替が進行。国内メーカー/流通でもGVフリー明記品が入手可。

ピオクタニンフリー・スキンマーカー

 

ピオクタニンとは

  • 化学名:メチルバイオレット6B(Methylrosaniline chloride)

  • 色調:紫~青紫

  • 歴史的背景:19世紀後半に合成され、消毒薬や口内炎治療薬として広く使用されてきました。

  • 特徴:ピオクタニンは血液や体液でにじみにくく、発色が鮮明なため、外科手術における切開線マーキングや皮弁デザインに適しています。

 

ピオクタニンの手術での主な用途

(1) 皮弁デザイン

  • 血液でにじみにくく、手術中の視認性が高い

  • 例:逆行性皮弁のpivot pointマーキング、複雑な皮弁設計

ピオクタニンを用いた皮弁デザイン

(2) リンパ管確認

  • リンパ管静脈吻合術(LVA)などで微量を皮下に注入して、リンパ管を染色し視認化。

  • 近年はICG(インドシアニングリーン)による蛍光画像法が主流化。

(3) 皮膚移植の表裏確認

  • 採皮片裏面にマーキングして、表裏の誤植を防止。

 

ピオクタニンの規制と適応外使用(日本)

項目現状
医薬品区分一般用医薬品(OTC薬)として「局所殺菌消毒剤」扱い
手術用途マーキング剤としては未承認
使用時の対応医師の裁量で使用可能だが、院内承認・患者説明が必須

重要ポイント:

  • 使用する際は、院内薬事委員会や倫理委員会で承認を得ること

  • 患者へのインフォームドコンセントで適応外使用であることを説明

  • 記録としてカルテに明記

 

ピオクタニンの安全性・リスク

組織毒性

  • 高濃度では細胞毒性が強く、炎症や壊死のリスクあり。

  • 推奨濃度は0.025~0.05%。必要最小限の使用が望ましい。

発がん性懸念

  • 動物実験で肝腫瘍が報告されており、発がん性の可能性が指摘されています。

  • 臨床現場では発がんの臨床報告はないとする病院文書が複数公開されているが、安全性は確立されていない。
  • 臨床使用量による発がんはリスクは極めて低いと考えられるが、欧米では使用が減少傾向。

 

ピオクタニンと代替色素との比較

色素特徴承認状況
ピオクタニンブルー鮮明な発色、にじみにくい手術用として未承認
メチレンブルー組織毒性が低い、安全性高い手術用色素として承認あり
ICG(インドシアニングリーン)近赤外線蛍光でリンパ管可視化静注薬として承認済

 

2021年12月28日付の厚労省通知

  • 2021年12月28日付の厚労省通知は、「メチルロザニリン塩化物(=ピオクタニン/ゲンチアナバイオレット等)」を原則含有不可とし、代替がなくベネフィットがリスクを上回る場合のみ、遺伝毒性・発がん性リスクを説明し同意の上で限定的使用を許容と通知しました。

 

学会や医療機関での具体運用(公開事例)

  • 日本眼科医会: スキンマーカー等のピオクタニン含有製品は原則使用禁止で、やむを得ない場合の例外条件(説明・同意)を周知。
  • 福井厚生病院:院内会議(薬事/倫理)で審査のうえ、院内製剤として限定使用。2021年厚労省通知の文言(説明・同意)に準拠。

  • 熊本赤十字病院「未承認薬等」文書として、手術部位マーキング目的の院内製剤運用と**発がん性示唆(動物)**等の不利益を記載。利益が上回る場合のみ最小量使用と明示。

  • 知多半島りんくう病院オプトアウト掲示+個別説明の運用。希釈・少量・一時的使用で体内残存が想定されにくい点も明記。

  • 秋田赤十字病院0.04%製剤の位置づけ、代替乏しい用途等を記載。

 

まとめ

  • ピオクタニンは原則使用しない
  • ただし代替不可で、利益がリスクを上回る時のみ、リスク説明+同意を得て限定的に可。
  • 上記を受けて、ピオクタニンフリー・スキンマーカーやICG・メチレンブルーを優先する流れにある。
形成外科領域においては、皮膚マーキング → ピオクタニンフリー・スキンマーカー、リンパ管可視化 → ICG(蛍光)やメチレンブルーを優先したほうが安全だね。
medical advisor

 

参考文献

 

  • This article was written by.
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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

日本医科大学形成外科学教室 准教授/医師。Advanced Medical Imaging and Engineering Laboratoryを主宰。 手足の形成外科、マイクロサージャリー、再建外科を専門とし、臨床・研究・教育に従事。可動式義指の開発、VR教育、3D超音波や医用画像工学の応用、PROsを重視した研究を展開。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣があり、芸術と医学の融合をテーマに講演・執筆。教育活動では学生・研修医指導のほか、東南アジア医学研究会(Ajiken)部長として国際医療交流・災害医療にも取り組む。

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