plastic surgery dermatology

【Step by Step 手術手技】顔の石灰化上皮腫

Key Point Summary

 

石灰化上皮腫は毛母由来の良性腫瘍(毛母腫とも呼ばれる)であり、(a)若年者、(b)女性、(c)顔・頚部・上肢、に多い。

顔周りの皮膚腫瘍摘出術では、RSTL(Relaxed Skin Tension Line)に沿った縫合線になるように紡錘形のデザインをする。

顔面神経走行上の腫瘍摘出術では、局所麻酔の影響で一時的に顔面神経麻痺がでることがあるので、事前に説明しておいたほうがよい。

 

 

 

Q & A

 

resident
RSTLってなんですか?

Borgesが提唱した皮膚線で、Relaxed Skin Tension Lineの頭文字をとったものだよ。皮膚がゆるんだ状態でも、絶えず皮膚にかかっている緊張を重視し、緊張のかかっている方向をRSTLと定義したんだ。もう少し噛み砕くと、皮膚をゆるめたときに寄る皮膚の細かいしわの方向だよ。
medical advisor

Borges AF, et al. Relaxed skin tension lines, z-plasties on scars, and fusiform excision of lesions. Br J Plast Surg 1962;15:242-254.

resident
RSTLは高齢者の皺の方向とイコールですか?

だいたい一致するんだけど、厳密にはちょっと違うんだ。皺線に沿った紡錘形切除を推奨したのはKraissl。両者の違いは下の論文に記載されているから興味があったら読んでみて。
medical advisor
   

Borges AF. Relaxed skin tension lines (RSTL) versus other skin lines. Plast Reconstr Surg 1984;73144-150.

顔面における皮膚切開・縫合法の基本手技

 

 

Outline

【概念】

  • 石灰化上皮腫は毛母由来の良性腫瘍(毛母腫とも呼ばれる)である。
  • (a)若年者(b)女性(c)顔・頚部・上肢、に多い。
  • 皮膚の直下にゴツゴツとした硬いしこりをふれる。
  • 皮膚表面から白い石灰化が透けて見えることがある。
  • 顔周りの皮膚腫瘍摘出術では、(1) RSTL(Relaxed Skin Tension Line)に沿った縫合線になるように紡錘形のデザインをすること、(2) 深部の顔面神経を意識した(損傷しないように配慮した)手術が重要となる。

 

Step by Step

 

■ Step 1 

  • 皮膚切開線を作図する。

 顔の皮膚腫瘍摘出術では、RSTLに沿った紡錘形切除が望ましい(=きずあとがきれいになる)。

右耳下部の石灰化上皮腫。
石灰化の白が透けて見えている。

点線はRSTLを示している。最終的な手術瘢痕がRSTLに沿うように病変部を含んだ紡錘形の皮膚切開線をデザインする。

 

■ Step 2 

  • 1%Eキシロカインで局所浸潤麻酔する。
  • 有鉤摂子などで痛みがないことを確認してから手術を開始する。炎症が強いと浸潤麻酔は効くまでに時間がかかる傾向にある。

腫瘍の周囲の皮下に、四角形を描くように局所麻酔薬を注射する。真皮内にむやみに圧をかけて注射すると痛いうえに、真皮に損傷が生じる。

麻酔が効くまで3分程度待つ。

1%Eキシロカインが十分に効くと皮膚が蒼白になる。

注射部位が蒼白になっているのがわかる。

 

■ Step 3 

  • 15番メスで腫瘍を切除する。


深部に顔面神経が走行する部位では深く切り込み過ぎないように注意する。通電を避けるため電気メスも使用しない→バイポーラを使用する。

 

■ Step 4 

  • 真皮縫合(4-0PDS)、表層縫合(6-0ナイロン)

 

■ Step 5 

  • ガーゼや水に浸して絞った綿球を厚めに折り畳んで圧迫しながら布テープで固定する。

布テープでかぶれないように皮膚被膜剤スプレーを散布するとよい。

 

■ Step 6 

  • 保冷材で5〜10分ほど冷却してから、手術終了とする。

術後血腫は感染や創離開の原因となるため、細心の注意を払って予防する。

エピネフリン含有の局麻による手術のほうが、非含有の局麻による手術よりも術後血腫がおおかったという報告がある。

 

■ Step 7 

  • 顔面神経麻痺がないことを確認する。今回の場合は、顔面神経の下顎縁枝の走行上なので口角の下垂がないかを確認する。

局所麻酔により一時的に麻痺することがあるため、麻痺している場合は翌日には改善する旨を説明する。

 

 

左耳下部の粉瘤を切除した別症例。術後に左顔面神経麻痺(前頭部のしわ寄せ×、上眼瞼の下垂、閉瞼困難、ほうれい線の消失、口角下垂)を認める。

 

■ Step 8 

  • 自宅でも保冷材で冷却して、患部の安静を保つ。
  • 入浴、お酒、激しい運動×
  • 翌日から自宅でシャワー洗浄処置とする。シャワー洗浄(石鹸、シャンプーも可)、タオルで水分をふきとって、ゲンタシン軟膏、ガーゼテープ(または浸出液が少なければ絆創膏)。
  • 抜糸は術後1週で可能である。

 

■ 処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後  3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日
  • ゲンタシン軟膏 10g 1本

 

■ コスト

resident
露出部ってどこ?

露出部=半袖・半ズボンで隠れている部分以外

 

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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