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【Step by Step 手術手技】グロームス腫瘍(爪床上編)

Key Point Summary

グロームス腫瘍は、爪下に好発する腫瘍であり、知らないと診断がつかない。

指末節の激しい痛みが特徴である。

3徴:①疼痛(pain)、②圧痛(pinpoint tenderness)、③寒冷時痛(cold intolerance)

治療は手術による摘出である。局所麻酔・指ブロック・指タニケット下で、爪甲をコの字に切開・挙上して腫瘍を摘出する。

 

指先(爪)の痛みを主訴に複数の病院を受診したけど、どこでも診断がつかず、精神的に病んでしまう患者さんもいるよ。手を専門にするドクター以外も知っておいて欲しい疾患の1つだね。
medical advisor

 

 

Q & A

resident
グロームスって人の名前ですか?

違うよ。手指の皮膚にはグロームス(glomus)器官と呼ばれる特殊な動静脈吻合存在し、末梢血流循環調節や体温調節を司っているよ。グロームス腫瘍は、このグロームス器官が過形成したものだよ。グロムス腫瘍と呼ぶこともあるよ。
medical advisor

*手指以外にも足趾、掌蹠、耳、眼険、頚部、前額部、口唇部などにも存在する。

 

Q & A

resident
グロームス腫瘍って、爪は割れますか?

グロームス腫瘍はいろんな部位に生じるんだけど、典型的には指の爪下に発生するよ。グロームス腫瘍は、腫瘤が大きくなると、爪が割れることがあるよ。爪下の腫瘤が、爪、爪床、爪母等を圧迫することで爪が割れやすくなるよ。粘液嚢腫(=DIP関節の変形性関節症に合併したガングリオン)でも爪が割れるので、両者は鑑別を要するよ。
medical advisor

resident
どうやって見分けるんですか?

グロームス腫瘍では、爪下に青色(or ピンク色)の病変が透見できることが多くて、その直上を押すと激痛が走るよ。あと寒冷刺激で痛みが生じるのも大きな特徴だよ。一方で粘液嚢腫は、後爪郭(爪上)に好発し、外観上は透明、病変の直上を押しても痛みはないことが多いよ。
medical advisor
 

 

 

Outline

【解剖】

爪の解剖

 

 

【概要】

  • 疫学:手の腫瘍の4.5%を占める(Glicenstein 1988)
  • 疫学:多くは単発だが、多発することもある。
  • 疫学:部位別では、通常は爪下に発生する。爪下以外では、手指、手、手関節、前腕、大腿など、四肢の軟部組織に発生する。
  • 発生:皮膚末梢の血流循環調節や体温調節を司っているグロームス器官と呼ばれる特殊な動静脈吻合が過形成したもの。過誤腫(腫瘍と奇形(形態発生異常)の中間的な性格の病変)と考えられている。
  • 鑑別:"指末節の痛い腫瘍"は、グロームス腫瘍をまず疑うが、神経腫、血管腫、血管腫、エクリンらせん腫等が鑑別として挙げられる。

この疾患を知らないと診断がつかない。複数の病院を転々として、痛みの原因がわからず放置されている例が散見される。

Glicenstein, et al. Tumors of the hand. Springer-Verlag, Berlin, Heidelberg, NewYork, London, Paris, Tokyo, 1988.

 

 

■ 臨床所見

  • 爪下に暗赤色の病変が透見できることが多い。
  • 3徴:①疼痛(pain)②圧痛(pinpoint tenderness)③寒冷時痛(cold intolerance)(Carrollら)
  • Love's pin test:痛みのある部位をピンで圧迫すると強い痛みが誘発される。
  • 寒冷感受性テスト:患手を冷水につけると強い痛みが誘発される。

Carroll RE,et al. Glomus tumors of the hand. J Bone Joint Surg 1972;54:691-703.
Love JG. Glomus tumors. Proc Staff Meet Mayo Clinic 1944; 19:113-116.

 

Love's pin test: ピン先で腫瘍の直上を押すと痛みが誘発される。

 

 

画像検査

  • X線:末節骨に異常を認めないことが多い。稀に類骨骨腫のように末節骨内に円形の透瞭像を認めることがある。
  • エコー:低エコー領域として描出される。
  • MRI:境界明瞭な円形で、T1で低信号T2で高信号を呈する。ダイナミック造影で早期から著名に造影される。ただし、病変が<1mmだと描出されないことがある。

MRIとエコーではMRIの方が描出の感度が高いと言われているよ。
medical advisor

病変が小さい(<1mm)場合、臨床所見からはグロームスを強く疑うけど、画像でうつらないことがあるよ。この条件下で手術に踏み切るかは判断が難しい…。より高解像度のエコー or MRIで再検査するか、患者との相談により慎重に手術適応を判断するしかないね。
medical advisor

 

 

Step by Step

■ Step 1 

  • 手術は局所麻酔でおこなうことが多い。
  • 1%キシロカイン10cc指ブロック注射をする。
  • 麻酔がきくまで3分待つ。
  • 指タニケットを使用して、無血野で手術する。

肉眼での手術はオススメしない。ルーペ or 顕微鏡を使用しての手術が望ましい。

爪下にやや紫がかったピンク色の病変を認める。腫瘍が大きくなると爪は割れることもある。

 

 

■ Step 2

  • 腫瘍直上にコの字状に切開線を作図する。

全抜爪をする必要はない。また、術後の疼痛や爪変形を誘発するので×。

 帝京大学の黒島永嗣先生は、爪床・爪母の侵襲を最小限にする目的で、側方アプローチを推奨している。側正中切開よりも2mmほど背側に皮切をおいて顕微鏡下でアプローチする。骨膜と爪床・爪母の間に侵入することになる。

切開デザイン

 

■ Step 3 

  • 爪甲をメスでコの字に切開し、中枢側を茎にして弁状に挙上する。
  • 爪下に透明(or ややピンク色)で、境界明瞭な腫瘤を確認することができる。(指タニケット駆血下ため腫瘤の赤みが少ないと考える)

本症例は爪床上に腫瘤が存在していたが、典型例では腫瘍が爪床下にある。その場合は、この段階では腫瘤は確認できず、腫瘤直上の爪床を縦切開して腫瘍を露出させる。

コの字にカットした爪をめくってグロームス腫瘍を露出させる。



 

 

■ Step 4

  • 小さな鋭匙または先の細い剥離鉗子で腫瘍を周囲から剥離する。
  • 摘出した腫瘍を病理検査に提出する。

爪床を極力損傷しないようにすることで術後の爪変形を最小限にすることができる。

腫瘍摘出直後。

 

■ Step 5

  • 爪甲をもとに戻して6-0ナイロンで2ヵ所程度、縫合する。

爪下血腫のドレナージを効かせたいので、密に縫合しないほうがよい。

爪床を縦切開して腫瘍を摘出した場合は、6−0バイクリル等で爪床を縫合する場合もある。ただし、無理に縫合して爪床を損傷するぐらいであれば、縫合せずにそのまま爪甲でカバーして治癒させたほうが成績がよいと考える。

直径3mmまでの爪床欠損は自然治癒する。それ以上の欠損では、人工真皮や足趾からの爪床移植を考慮するが、グロームス腫瘍の摘出術ではその適応は稀である。

6−0ナイロンで縫合する。

 

■ Step 7

  • 当日は、安静、患部冷却、患手挙上とする。
  • 翌日〜自宅処置(シャワー洗浄、軟膏、ガーゼを1日1回)を開始する。通常は2〜3日で出血の浸みだしはなくなる。
  • 術後2週間で抜糸する。
  • 抜糸後にカットした爪甲が浮くようであればサージカルテープで固定継続 or 市販の爪の補強コートで補強する。浮かなければ、そのまま爪が生え代わるのを待つ。

 

 

■ 処方箋

  • ケフラールカプセル(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後  3日分
  • ロキソニン錠(60mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日
  • ムコスタ錠(100mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 3日分

 

  • ゲンタシン軟膏 10g 1本

 

 

■ コスト

 

 

■ 割れた爪のケア

 

resident
コの字に切った爪はどうなるんですか?

爪が伸びるに従って次第に指先に押し出されるよ。爪が生え代わまでは約半年が目安かな。
medical advisor

resident
コの字の部分がプカプカ浮いちゃったりひっかかったりしないですか?

あまり問題にならないけど、気になる場合は、爪を補強するトップコート(マニキュアのような透明ジェル)を購入してぬってもらっているよ。さらに上級者になるとシルクラップ+トップコートできれいに爪を補強しているよ。
medical advisor

 

 

【爪の補強コート】

 

 

【爪の補強シート】

 

 

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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