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【診療Tips】壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection: NSTI)

定義

  • 壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection: 以下、NSTI)は、軟部組織(皮膚、皮下組織、浅筋膜、深筋膜、筋肉)のいずれかの部位から急速かつ広範囲に組織壊死が広がり、臓器障害をきたす感染症の総称である。
  • 以前は浅筋膜を感染の主座とするものを壊死性筋膜炎と呼んでいたが、近年は壊死性筋膜炎も含めた包括的な概念としてNSTIと呼ぶことが多い。

 

 

 

疫学

  • 10万人あたり4人(1)と罹患率は低いものの、死亡率は16〜24%(2)と高い致死的疾患である。

(1) Ellis Simonsen SM, et al. Cellulitis incidence in a defined population. Epidemiol Infect 2006;134:293-299.

(2) Anaya DA, et al. Necrotizing soft-tissue infection: Diagnosis and management. Clin Infect Dis 2007;44:705-710.

 

分類

  • NSTIは起因菌別の分類により、Type 1Type 2に分類される(実際にはVibrio spp.などの海関連のグラム陰性桿菌によるType 3、外傷が原因となる真菌によるType 4もあるが、頻度が低いためここでは省く)(3)
  • Type 1は、好気性菌と嫌気性菌の複数菌による混合感染が原因であり、高齢者や基礎疾患がある患者に好発する。病状は緩徐に進行し、比較的予後はよく、死亡率は基礎疾患に依存する。
  • Type 2は、A群溶血性レンサ球菌や黄色ブドウ球菌など皮膚や気道の単一菌による感染が原因であり、年齢や基礎疾患は関係なく健常者にも生じる

(3) Bonne SL, et al. Evaluation and management of necrotizing soft tissue infections. Infect Dis Clin North Am 2017;31:497-511

 

病態

  • 病態のメカニズムとしては、まず軟部に侵入した菌が毒素を産生し末梢血管が閉塞することで虚血と壊死が進行する。
  • さらに壊死環境で細菌が増殖することで感染が急速に周囲に進展する機序が考えられている。

 

 

臨床所見

  • 臨床所見: stage 1(早期)では、発赤、熱感、腫脹とともに皮膚所見を越えた圧痛、stage 2(中期)では、水疱形成、皮膚の波動・硬結、 stage 3(晩期)では、血性・水疱形成、握雪感、皮膚知覚低下、皮膚壊死を認める(4)

(4) Wang YS, et al. Staging of necrotizing fasciitis based on the evolving cutaneous features. Int J Dermatol 2007;46:1036‒1041.

 

 

早期診断のポイント

  • NSTIは時間単位で組織障害が進行するため、できるだけ早い段階で診断することが求められる。
  • NSTIを積極的に疑う特徴的な所見としては、① 紅斑の境界が不明瞭であること(表在性感染症では紅斑の境界は明瞭である)、② 紅斑の範囲を越えた圧痛③ 皮膚所見から考えられるよりもはるかに強く痛がること、があげられる。NSTIは、軟部組織のなかでも血流が不良な筋膜を主座にして感染が広がるため、初期には表層の組織(皮膚や皮下組織)には所見がでづらいために上記のような現象が生じる。
  • 一般外来の診療医は①②③を見逃さないようにし、これらを認めるようであれば即座に高次医療機関に救急搬送をおこなう。

 

 

画像診断

  • NSTIの診断のための画像診断は、エコー、CT、MRIの有用性がそれぞれ報告されているものの、有用性に関する評価は一定していない。
  • 海外からの報告では、「NSTIは急速進行性のため画像撮影をすることで治療介入が遅れてはならない」とする意見が多い。一方日本ではCTが比較的迅速に撮影できることもあり、われわれの施設では全例でCT撮影をしてから手術をおこなっている。CTではガス像の有無や筋膜の肥厚や液体貯留の範囲を確認することが可能であり、外科的介入をおこなう範囲を予測するうえで有用であると考えている。
  • また2018年にMartinez M らは、NSTIの診断に造影CTが有用(感度100%、特異度98%)であると報告している(5)

(5) Martinez M, et al. The role of computed tomography in the diagnosis of necrotizing soft tissue infections. World J Surg 2018;42:82–87.

  • NSTIの画像診断の有用性に関しては更なるのエビデンスの確立が求められる段階である。

 

 

診断補助ツール:LRINEC(ライネック)スコア

  • 血液生化学検査データを使用した診断補助ツールとしてLaboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis (LRINEC)スコアがある(6)。6つの独立した検査データ(CRPWBCHb血清Na血清Cre血糖)をスコア化し、NSTIの可能性を判断する指標として用いる。
  • LRINECスコアが6点以上であれば、陽性予測値が92%、陰性予測値が96%でNSTIの可能性が高いと判定される。
  • 一方で、LRINECスコアが0点であったNSTIも報告されており(7)、採血データに変化がでていない早期のNSTIの診断や除外には限界があるといわれている。

(6) Wong CH, et al. The Laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis) score: a tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections. Crit Care Med 2004;32:1535-1541.

(7) Wilson MP, et al. A Case of Necrotizing Fasciitis with a LRINEC Score of Zero : Clinical Suspicion Should Trump Scoring Systems. J Emerg Med 2013;44:928-931.

 

 

診断の決め手:試験切開とfinger test

  • 上記からわかるようにNSTIの早期診断は非常に難しい。
  • 診断の決め手として最も信頼性が高いのは、試験切開finger testである。
  • 外来やベッドサイドで局所麻酔下に数cmの皮膚切開をし、悪臭を伴う濁った液体の排出(dishwater brown fluid)を認め、指で皮下(浅筋膜レベル)を抵抗なく剥離することができる場合(finger test陽性)は、NSTIの可能性が極めて高い。

 

 

外科的治療

  • NSTIは可能な限り早期に外科的デブリードマンを要する病態である。
  • 受診 後< 24 時間に手術を行った患者のほうが >24 時間経過後に手術を行った患者より生 存率が高く、≦6 時間に手術を行えばさらに 生存率を改善することかができるという報告もある(8)

(8) Stevens DL, et al. Necrotizing soft‒tissue infections. N Engl J Med 2017;377:2253‒2265.

  • 集中治療室で全身管理が可能な病院での治療が必須である。
  • 初回手術でどこまで病変部を切除できるかが生命予後に直結するため、生きている組織に到達するまで壊死した病変は徹底的に切除する。
  • 創は開放管理とし、週に2〜3回のペースで感染徴候が落ち着くまで創の再評価とデブリードマンをくり返す(2nd look、3rd lookと呼ぶ)。
  • 創処置時の外用剤はポピドンヨードゲルスルファジアジン銀クリーム(ゲーベン®を用いることが多い。
  • 完全に壊死組織が除去できたことを確認してから閉創をする。閉創までの間に陰圧閉鎖療法を併用することもある。デブリードマン時に皮膚も同時に切除されていることが多いため、閉創時に分層植皮を要することが多い。
  • 抗生剤の選択は、グラム染色でグラム陽性連鎖球菌、もしくはA群β溶血連鎖球菌抗原キットで陽性が確認できればペニシリン投与が原則である。確認できない場合はカルバペネム系の抗菌薬を選択する。
  • またNSTIは毒素が原因で組織壊死が進行するため、蛋白(毒素)合成阻害薬であるクリンダマイシンを上記の抗生剤に追加することが推奨されている。また、A群β溶連菌による重症例ではガンマグロブリン投与も検討する。

 

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Shimpei Ono (Plastic Surgeon)

Associate Professor, Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Nippon Medical School. He specializes in hand and foot plastic surgery, microsurgery, and reconstructive surgery, and is involved in clinical practice, research, and education. His research interests include the development of movable prosthetic fingers, VR education, application of 3D ultrasound and medical imaging engineering, and emphasis on PROs. He also has an interest in art anatomy and medical illustration, and lectures and writes about the fusion of art and medicine. In his educational activities, in addition to teaching students and residents, he is also involved in international medical exchange and disaster medicine as the director of the Association for Southeast Asian Medical Research (Ajiken).

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